第14話 転移使用者

 国王陛下の促しを受けて、私はつらつらと調査結果を話しました。


「今回、事前にユニちゃん…ユニ調査室長が調べていた通り、行方不明者が目撃された付近には確かに界振の痕跡がありました」

「あぁ、それはユニ室長からも調査報告を受けているところだ。今回のアト局長の調査でも結果は同じだったということだろう?」

「はい、界振は地理的に不安定な場所で自然現象的に発生するものです」

「それもユニ室長から報告を受けている」


 国王陛下はそういい、ダイナス宰相も含めてうなずいています。


「私も当初は、おそらく王都内でも地理的に不安定な場所で界振が多発している状況だろうと考えていましたが調査を進める中で、今回界振が発生している場所にその特徴はありませんでした」

「ではなぜ界振が発生し行方不明者がでている?」


 私が説明を続けると国王陛下が疑問を呈し、ダイナス宰相も顎に手を当てて頭を捻っています。


「私も疑問でしたが、そちらの調査でははっきりと理由がわからずでした。ただ、もともと私が王都に来る目的であった、こちらのほむらさんが召喚された先である倉庫の方を確認しに行ったところ不審な人物と遭遇しました」

「何が不審だったんだ?」

「捉えられず逃がしてしまいました」


 私が不審人物を逃がしたことを告げると、国王陛下とダイナスさんが目を大きく見開いて驚いた顔をしていました。


「アト局長が捉えられなかった人物とは一体……」

「完全に私の思慮不足でした……その人物はどうやら“転移”に近い力を行使できるようです」

「転移!? テレポートの間違いではなくてか?」


  ダイナス宰相が驚いたように問いかけてきた後、私は首を横に振りました。『何かの間違いではないのか』とつぶやくダイナス宰相に私ははっきりと間違いがないことを語りました。


「テレポートであれば、魔力痕跡で追跡できますが、途中で完全に消失し、消失場所に界振に近いものが発生しています」

「つまり、その不審人物が転移を行使できると?」


 そう確認してきた国王陛下に私は肯定の意味でうなずき返したました。


「はい、転移とはいかずともそれに近い力です」

「……転移は習得しようとして身に着けられる力ではないはず、異界門管理者しかそ聞いたことがないが……」


 国王陛下が語りかけるようにつぶやいていました。


「陛下の仰る通り、私も使用者は2人しか知りません」

「アト殿とツィル殿だな」


 すかさずダイナス宰相が名前を挙げました。


「はい、異界門の管理者権限を持つ私と、同じく管理者権限を持つツィル副局長ですね。そこに今回の不審人物が入ってくることになります」


 私が問題の核心を告げると、国王陛下は少しうつむきがちに手を額に当てて困ったという風な表情をしていました。


「そうか……その人物の目的を聞き出す必要があるな。ダイナス、すぐに王都内にその人物の捜索と確保を手配しろ」

「かしこまりました陛下、しかし手がかりがまるでない状態では何を探せばよいのか……それに転移能力があるのでは王都にいるのかすら怪しいかと…?」

「うむ……しかし何もしないわけにはいくまい」


 ダイナス宰相に命令を出したものの陛下も困っているので声をかけます。


「取り逃がしてしまった責任は私にありますので、引き続き捜索と確保はこちらでやります。陛下とダイナス宰相には王都内で不審人物の取り締まりと王都に通じる門の守りを固めていただければ」

「あぁ、わかった。王都内の巡回兵の数を倍にして対応する、よいなダイナス」

「はい、陛下。ただちに準備に移ります」

「しかし、アト局長が動くとはいえ、ダイナスも言っているようにすでに王都にいない可能性は変わらないな」


 国王陛下がさらに困った顔をして考え込んでいたので追加で情報の提供と報告をすることにします。


「その件についても最後に陛下と宰相にお伝えしておきます。さきほど言った人物を確保するまでの間、王都内には転移不可、テレポート不可の領域指定をさせてもらっています」

「!?……いや、しかし、やむをえまい」


 かなり独断専行気味なのでお小言をいただくかと思いましたが、事態を正確に把握してくれているのか事後承諾がいただけたようです。


「領域指定は不審人物が転移をしようとした直前にかけましたが、移動の阻害まで間に合ってはいません。なのですぐに対処に移ります。報告は以上になるので失礼します」

「あぁ、すまないが引き続きよろしく頼む」


 陛下からのお願いを聞いて、『承知しました』とだけ告げて私は部屋を後にしました。


「ほむらさん、さきほどの不審人物が消えた場所に行きましょう。界振の痕跡をたどれば転移先を追跡できるかもしれません」

「……今更なんだが、その転移とテレポートは何が違うんだ?」


 ほむらさんが疑問を投げかけてきました。


「あ、すみません、連れてきておいて話してなかったですね。イメージでお伝えすると、テレポートは移動したい先まで魔力で道をつなげてその上を進む感じです。連続性があります。一方で転移は移動元と移動先を別空間を経由してつなげる非連続性のある移動手段です。この際に別空間に迷いこんだ人のことを迷い子と言います」

「……よくわからん」


 ほむらさんはより一層眉間にしわを寄せながら、どういうことだ?という顔をしていました。


「転移はめちゃくちゃ遠くまで移動できるのでテレポートの強化版という理解でいったん大丈夫です!」


 頭をひねらせすぎてオーバーヒートしかけているほむらさんを見て、私は雑に話をまとめました。


「重要なのは、転移使用者は私含めこの世界には2人だけのはずでしたが、件の不審人物が界振と共に消えたということは”転移”を使える第三者が存在して何か企んでいる可能性が高いということです」

「……なるほど、そのもう一人の転移使用者の副局長があの小屋にいた可能性もあるんじゃないのか?」


 ほむらさんが抱いて当然の疑問を投げかけてきましたが、陛下とダイナスさんが何も言わなかった通りその可能性はありません。


「副局長の場所は私が常に補足しています。逆もしかりで副局長も私の位置ははっきりとわかっています。万が一に備えての異界門管理局の規則です。一応さきほど連絡を取りましたが、ちょうどその時間は彼も私と同じで迷い子増加の説明と解消のために帝都で帝国議会の招集を受けていたようです」


 ツィル副局長は南陸、つまり国としてはエスティア帝国側の管轄で、どうやら私同様に絶賛迷い子の対応や異世界に関わる事故事件の対処と原因究明に奔走しているとのことでした。


「そっか……だが、つまり新しい使い手が増えたかもしれないってことだな! なんか面白くなってきたな」


 ほむらさんがなんだかワクワクしたような眼をしていました。


「はい、なので不審人物さんには話を聞かせてもらわないといけないのでとっつかまえてやりましょう!」

「りょうかい!」

「まずは、さきほどの小屋の場所に戻って界振の痕跡を調べましょう」


 一通り状況を説明したところで、私とほむらさんは不審人物が消えた場所へ戻ることにしました。

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