第13話 痕跡
運ばれてきた昼食を食べていたところ王都に来たときに見た顔の兵士が、『ダイナス宰相から』と言って地図を持ってきてくれました。
ダイナスさんに準備してもらった地図をみると30か所ほどマークされています。その中にチェックが入った場所があり、ユニちゃんの調査ではそこが界振の痕跡があった場所のようです。
「とりあえずここから一番近いところに行ってみましょうか、その後一通り見て周って最後にほむらさんが目を覚ました小屋に行こうと思います」
「わかった、それにしても美味かったなぁ……特に最後に食べた菓子は最高だった……」
「満喫しているようで何よりです。確かにとても美味しいものばかりでしたね」
そんなふわふわした会話もしながら城から出て地図のマークされた場所に向かいました。
◇
「ここですね……」
王城正門から出て王都中心部まで下ったところに教会と冒険者ギルドがありますが、そのちょうど間の裏路地のような場所でした。
「こんな場所で人が消えたのか? すぐそこが大通りだぞ?」
「ユニちゃんの調査結果なので間違いはないでしょう、ここで消えたとされているのはギルド所属の冒険者ですね」
「それならここがギルドっていう建物だからここで消えたっていうのもありうる話か」
確かにほむらさんがおっしゃる通り職場の近くで消えたというなら妥当ですね……
「ここが一番最近の消失ポイントらしいです。行方不明になったのは3日前で、今も界振の痕跡を感じるので確かに転移はあったんだと思いますね」
「えらく微妙な言い方するな、じゃああったこともわかったならここに用もない感じか」
「ですね、30か所もあるのでどんどん見ていきましょうか」
あまり時間をかけても仕方がないのでとりあえず地図にある場所をすべて周ることにしました。
周ってみると数か月前などに行方不明になったとされている、時間が経ちすぎているものを除いて、ほぼすべての場所で界振の痕跡が見られました。同じ街の中でこの短期間に複数個所で界振が発生しているのは異常事態です。
「参りましたね、本当に異常事態です」
「なんだいまさら? お前も最近の迷い子の増加はおかしいって言ってたじゃないか」
「それはそうですが、世界は広いので多少増える時期もあるんですよ。でも、この狭いエリアでここ数か月の短期間で30回ともなると何か作為的な、誰かが故意にやっているのではないかと……」
「……やっぱりあたしが見たやつが絡んでるのか?」
「まだ直接的な関係は分かりませんが、可能性高いんじゃないかなぁとは思います」
転移してきたほむらさんに、私の命を狙わせた”フルカス”という人物が王都での行方不明事件に何かの形で絡んでいるのはほぼ間違いないだろうと思います。
「まあ考えていても仕方がないので、王城に戻る前にほむらさんが目を覚ました小屋に行きましょうか」
私とほむらさんは王都の中心地を後にして、ほむらさんがこちらの世界で初めて目を覚ましたという小屋に向かうことにしました。
◇
「あれですか……」
ほむらさんは数百mほど先の小屋とも言いにくい小さな倉庫のような建物を指さして、『間違いない』と言いました。王都の辺境も辺境、街はずれです。
「ほむらさんが転移してきて目を覚ましたのってどのぐらい前でしたっけ?」
「目を覚ましてからであれば、7日だな」
「であれば界振の痕跡もありそうですね、とりあえずお邪魔してみましょうか」
転移してきたときの話を再度確認しながらその倉庫に近づいていたところで、倉庫の中から人の気配を感じました。
「……誰かいますね」
「確かに誰かいるな」
ほむらさんも人の気配に気づいていたようです。さすがは諜報暗殺をお仕事にしていただけあり感覚が鋭いです。
「倉庫の持ち主かと思いましたが、それにしては存在を隠蔽しているような気配に感じますね。怪しい人物であれば拘束可能ですか?」
私がほむらさんにそう問いかけると、無言でうなずき返してくれました。
「では、私が近づいて扉を開けますので何かあればお願いします」
犯人は現場に戻るという話を誰かに聞いた気がしますが果たして……
倉庫から30mほど離れた位置まで歩いて進んだところで大きな魔力変動があり倉庫が大きな火柱を上げて燃え始めました。続いて独特の魔力変動、このパターンはテレポートです。
「空間移動で逃げられます! ほむらさん!!」
私が声をかけるより早くほむらさんが飛び出し燃え盛る倉庫の扉を蹴破りました。ほぼ同じタイミングで私も周囲の移動魔法を制限する術式を発動します。
「くそ! 誰もいない!!」
倉庫の中を見たほむらさんが振り向きざまに大きな声でこちらに状況を説明してくれました。
「移動制限をかけたのでそれほど遠くには飛べないはずです。捕捉します」
私はほむらさんにそう返すと捕捉魔法を展開しました。
テレポートであれば魔力痕跡を追えばおおよそのテレポート先がわかります。
倉庫に誰かいたことは間違いありません、魔力痕跡が王都の内側に向かって伸びています。
しかし、王都中央に向かっていた魔力痕跡が途中で途切れました。これは……非常に困った事態になってきましたね。
「おいアト! 場所わかったのか!?」
「すみません、逃がしました」
倉庫にいたアトさんが私の前まで戻ってきました。
「逃がしちまったか、すまん」
「いえ、私が浅慮でした。状況を甘く考えすぎていました。どうやら今回の件は異常事態を超えて一大事のようです……すみませんが急ぎ王城に戻ります。夕食はしばらく我慢してください」
「おい! 急にどうした? 何かわかったのか?」
「状況は王城に着いてから話します。手を」
私はほむらさんの手を取り王城までテレポートしました。
「どわぁ!! 何事だ!!」
「アト殿!? いくらアト殿とはいえ王の謁見の間にテレポートされるというのはいささか問題があります!」
私は王都辺境の倉庫から国王陛下のいる場所へ直接テレポートしました。どうやら都合よくダイナスさんもいたようです。
「緊急事態であると判断し直接伺わせていただきました。お時間をいただきます」
「急に来て一体なんだというんだ」
「陛下から事態解消を図るように命を受けていました今回の迷い子の増加、行方不明者の多発に関しての調査結果とその調査の中で判明した事実についてご報告することがございます」
「……もともと良い報告がもらえるとは思っていないが、よほどの悪い結果か?」
陛下が真剣な顔をしてそう問いかけてきました。
「非常に悪い状況です。報告ののちすぐに対処に移らせていただきたく」
「いいだろう、執務室へいこう。ダイナス宰相もついてきなさい」
「承知いたしました陛下」
陛下がダイナス宰相に同行を求めるとダイナスさんが了承の言葉とうなずきで返事をしました。
「では私がまとめて執務室にテレポートさせてもらいます」
私はそういうと”
「では、場所も移せたところで話を聞かせてもらおうか」
国王陛下は執務室の椅子にゆっくりと腰かけながら報告を求めてきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます