第10話 出立
王城からの招集令状を受けて、私とほむらさんは王都への出立準備をすることにしました。
「ありがとう、では留守番お願いしますね」
「はい、おまかせください」
「おいアト、そういえば早々に出発するって言ってたけどいつ出発するんだ?」
ユニちゃんと話をしていたところで、2階でティータイムを取っていただいていたほむらさんが降りてきました。
「ん? そのちびっこが客人か?」
「ちびっ!?」
ほむらさんがユニちゃんを見て開口一番ちびっこと言ったことにかなりの衝撃を受けたのか、ユニちゃんは大層驚いた顔をしていました。
「こちらのちっちゃくてかわいい子はユニちゃんと言って私の同僚です。王城からの招集令状を届けてくれました」
「召集令状? 王様がお前に来いって言ってるのか。何したんだ?」
ほむらさんが何だか怪しい人物を見るような目をしながら私に問いかけてきました。
「別に何もしていないですよ! 最近転移絡みの事件事故が多いので説明しなさいという感じでしょう。さすがに拒否もできないので招集に応じようと思います」
「まあ、あたしが件の不審者に会ったのも王都周辺ではあるからまとめて行くってことだろ?」
「そうですね、ほむらさんの小屋の話も直接なり間接なりで召集されて国王陛下に問われることに関係しているでしょうからついでですね」
「別にあたしの小屋ではないんだが……」
ほむらさんに王城召集の件を話し込んでいたところ、驚いた顔で硬直していたユニちゃんは気を取り直したのかほむらさんに向き直りました。
「ほむらさんというんですね、よろしくお願いします。それと私は大人なので、二度とちびっことは呼ばないでください。」
「ユニだったよな? 悪い悪い、つい見たまま口走ってしまった。他意はない!」
ほむらさんはストレートに思ったことをそのまま口にしてしまう癖がありますね。間接的ではありますが『お前の見た目はどこからどう見てもちびっこだよ』と言っているようなものです。これでは謝っているのかおちょくっているのかわかりません。
案の定ユニちゃんはその言葉を受けてそこそこご立腹のようです。
「……ところでほむらさんはアト局長の知り合いということですか?」
ご立腹だったユニちゃんは一呼吸おいて怒りを抑えつつ、ほむらさんの事情を確認してきました。
「ほむらさんは、さきほどユニちゃんに話した、私が気になることを聞いた迷い子です。調査のため一時的に私が雇っています。今回の王都行きにも同行してもらおうかと」
私がほむらさんのことをユニちゃんに説明すると、ほむらさんは『よろしく!』と片手を挙げて挨拶していました。
「やはり迷い子の方でしたか、少し良くない態度をとってしまいました。すみません」
ユニちゃんは本当に賢くて良い子ですね。ほむらさんが別世界の方なので文化的な違いでの発言だったのだと考えて謝罪したのでしょう。……ほむらさんがユニちゃんをちびっこと呼んだのはそんな深い理由ではないと思いますが。
「挨拶も済んだことですし、本題に戻りましょうか。こちらのほむらさんは迷い子なんですが、この世界に転移してきた際に不審な人物に私のことを殺したら元の世界に帰れるぞと吹き込まれたみたいです」
「何ですかその如何にも怪しい人は」
ユニちゃんは鋭くツッコミを入れてきました。
「そう思いますよね、なのでその怪しい人に直接話を聞きたいなと思って、ほむらさんが転移して初めて目を覚ました王都近郊の小屋に向かおうとしていたわけです」
「それでついでに王城への招集にも応じると言っていたんですね」
ほむらさんが私の家にいる経緯を話すとユニちゃんはずいぶん納得したようでした。
「じゃあ今すぐに王都に向かうんですか?」
「そうだね、とりあえず王都に行ってみて探してみようかとはほむらさんと相談をしていました。ほむらさんが良ければすぐに出発しようかなと」
「あたしはいつでも良いぞ」
「ということなのですぐに王都に向かおうかな。ユニちゃんが留守番してくれるんですよね?」
「はい! おまかせください!」
ユニちゃんは元気よく返事を返してくれました。
「ありがとうございます。ではティータイムは終わりにして、私とほむらさんはさっそく王都へ向かうことにします。王城への寄り道も含めて1か月ほどは戻らないと思うので後はよろしくお願いしますね」
ユニちゃんに後を任せて、私とほむらさんは必要な荷物を持って王都に向けて出発しました。
王都へ向かい前に、私とほむらさんは家を出て正門に向かいました。
「あれ、アトさん外出ですか?」
「えぇ、王都に行く用事ができましたので、私がいない間もさぼらずに仕事してくださいね」
「何言ってるんですか! 今だってしっかり仕事していたところじゃないですか!」
正門横の詰め所で菓子パンをむさぼりながらベッドに寝転がっていたクランさんに当面シルヴィクを離れることを伝えておきました。
「あっ! そうだ、私がいない間の異界門の管理はユニちゃんが代役としてがんばってくれるのでもし何かあればユニちゃんに相談してくださいね」
「えっ! ユニさんも一緒に王都に帰るんじゃないんですか!?」
私が留守の間にユニちゃんに迷惑をかけないように釘を刺したところ、クランさんは大きな声を出して驚いた後『まいったなぁ…』とつぶやいていました。つぶやきと一緒に、その目の奥が暗く沈んでいき落胆に満ちていくのがよくわかりました。
「では留守の間ユニちゃんとも仲良くしてくださいね」
絶望に打ちひしがれているクランさんのことは見て見ぬふりをして、私とほむらさんは正門を出て西側の港へ向かいました。
クランさんを置いて門を出たところでほむらさんが『そんなに仲悪いのか?』と尋ねてきたので『とても仲良しですよ』と返しながら港へ向かいました。
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