第9話 王都からの使者

「では、私の家に帰る前に、正門でご迷惑をおかけした衛兵さんたちのところに事情説明に行きましょうか」 


 喫茶店でのティータイムを終えた私はほむらさんを連れて正門の衛兵屯所に向かいました。


「ギルマさんいらっしゃいますか?」


 私が屯所に顔を出して声をかけると奥の方からギルマさんが出てきてくれました。


「アトちゃんお疲れさん、横に連れてるということは上手いこと話がついたって感じかな?」

「彼女、ほむらさんと言いますが、迷い子です。ちょっと色々あって私を探していたそうですが、当分の間は私のお仕事のお手伝いをしてもらうことで話がついたのでご心配は無用です」

「そうかそうか! そりゃよかった!」

「ギルマさん含め衛兵さんたちにはお手数かけました。ほら、ほむらさんもご挨拶をしてください」

「……さっきは悪かったな」

「ははは! かまわないよ。じゃあこの子、ほむらちゃんのことはアトさんにおまかせしますんで」


 豪胆に笑うギルマさんと、屯所にいた衛兵さんたちに挨拶をして、私とほむらさんは家に戻りました。



「それでは正式に異界門管理局からの依頼という形で受注いただいたということでしばらくの間よろしくお願いしますねほむらさん」

「あぁ、しかし正直手がかりもほとんどないがな…」

「まあとりあえずはほむらさんが意識を取りもどしたという小屋? 部屋? に行ってみようかと思ってます。支度ができたらすぐに出発しようと思います」

「りょうかいした。だが本当にほとんど手がかりもないから、大した協力は期待するなよ?」

「確かに、その小屋でほむらさんをたぶらかしたフルカスという人物は声以外の情報がないので中々難しいところではありますね」


とはいえ、ひとまずは王都に行ってみるのが近道なんだろうとは思いますね。


「アトさ~ん!」


 ほむらさんとこれからどうやって調査を進めていくか話合いをしていると私を呼ぶ聞き慣れた声が階下から響いてきました。


「すみません、クランさん、少々取り込み中でして急ぎでなければ後日でお願いしたいのですが!」

「アトさんにお客さんなので急ぎです! それも王都から! できれば早く引き渡したいです!」

「また私向けのお客さん? それも王都?」


 人気者は忙しくて困ってしまいますね。などとバカな考えを頭の中に巡らせながらクランさんが入ってきた玄関口に向かうことにしました。


「すみません、ほむらさん。お客さんのようなので少しお待ちいただけますか。そこにあるお菓子は食べてもらっていいので、ゆっくりしておいてください」

「くつろがせてもらうよ」


ほむらさんとの今後の対応検討お茶会を中断して、階下に降りていくと玄関口にクランさんが待っておりその後ろから幼げな女の子の声がしました。


「アト局長、お久しぶりです」


 薄青い髪の毛をサイドに結び、白い聖服をまとった少女が声と共にクランさんの後ろから顔を出しました。


「ユニちゃんだ!」

「はい、ご無沙汰しています」

「相変わらずかわいいねぇ~、あっお菓子食べる?」

「ユニのこと子供扱いしないでください! でもお菓子はいただきます!」


 このとってもかわいいちっちゃな女の子はユニちゃん。シルヴィクの教会に勤めていた元シスターです。縁があって今は異界管理局情報調査室の室長を務めていただいています。


「じゃあ、俺はお仕事に戻らないといけないので今日は早々に退散します! 失礼します!」

「あら? 今日は早いですね、せっかくユニちゃんが来てくれたからこんな時こそゆっくりしていけばいいのに」

「いえ、勤務中ですので!」


 クランさんとユニちゃんは昔よく遊んでいた仲のはずですが、挨拶をするとクランさんはそそくさと帰って行きました。


「ではユニちゃんにはお菓子とお茶出すので椅子にかけて少し待っててくださいね。王都からここまで疲れたでしょ?」

「船と馬車に揺られていただけでしたのでそれほど疲れてはないですよ大丈夫です」

「こっち来るなら連絡してくれれば迎えに行ったのに」


 異界管理局情報調査室は王城、つまり王都にあります。王都からシルヴィクまでの通常ルートは陸路と海路を使わないといけないのでかなりの長旅です。


「ところで、遠路はるばるシルヴィクに来たのは私に会いたくなってというわけですよね?」

「はい違います」


 あっさり否定されました。


「アト局長に用事があるのはその通りなのですが、お渡ししたいものがありまして」


 そういうとユニちゃんは懐から金色の封がされた手紙を取り出し私に手渡してきました。


「国王陛下からの招集令状です」

「なんと……」


 異界門管理局は国から独立した組織なので国から招集がかかることなんて滅多にありません。


「すでにアト局長もご存じかと思いますが、最近転移に関係すると思われる事象が増えています。そのことで管理局の見解と問題の解消方針について聞きたいと……」

「そっか~、めんどうだなぁ」

「アト局長、心の声漏れてますよ」


 これは『ちゃんと管理しろ』『どう責任を取るんだ』的に怒られるやつでしょうか。ちょうど今からやろうとしていたところなのに、その前に面倒なエスカレ対応が増えてしまいました。


「本当にめんどうではありますが、もともと招集内容にかかわる件で少し調べものをしに王都へは向かおうとしていたところです。なので招集には応じて王城へは向かいます。ユニちゃんありがとね」


「いえ、やっぱりアト局長の方でも今回の転移者数の増加、界振発生数の増加は気にかけておられたんですね」


「えぇ、数が増えているなぁとおもっていたところで、つい先日少し気がかりな話をとある迷い子から聞きまして。また調査内容と結果は分かれば共有しますね」


「はいお願いします。私の方でも調査資料をまとめて、国王陛下に提出してあります。おそらくそちらに関して話があると思います。資料はアト局長にもお渡ししておきます」


 そういうとユニちゃんは手持ちのカバンからまとまった紙の束を取り出し私に手渡してきました。


「さすがユニちゃんですね。王都に着くまでに確認しますね」


 これ私が行かなくても、ユニちゃんで対応すればよいのでは?と思うほどの仕事の早さですね。まあ丸投げというわけにもいかないのですが。


「それとアト局長がシルヴィクを離れる間は私が代理で異界門管理をするように、留守をサポートするように、とも王命を受けています」


 ユニちゃんが自信満々にそういいました。確かにユニちゃんなら何も心配はないです。ありがたくおまかせしましょう。

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