第8話 異世界の忍

「ネイヤさん、フルーツケーキ1つとアイスティー1つ!あなたは何にします?」

「いや、あたしはいらな……」

「追加で栗のケーキと緑茶1つ!」


 私は、彼女の言葉を遮り勝手に追加注文をしました。何なんだこいつという顔をしてこちらを見ています。


「さて、注文もできたので午後ティータイムに入る前にとりあえず自己紹介といきましょうか。私はさきほど自己紹介した通り、ここシルヴィクで異界門管理局の局長をしているアトと言います。あなたのお名前も教えていただけますか?」

「……ほむら」


 彼女は少し間を置いて一言そうつぶやきました。


「ほむらさんですね。よろしくお願いします」


 ほむらさんから返答はありませんが、ここは突っ込んで聞いてみましょうか。


「ほむらさんは何しにこの街へ?」


 いきなり本題には入ってみましたが、さすがに中々口を開いてくれませんでした。彼女が口を開いてくれるのを待っているとお茶とケーキが届いたので先にいただいてしまいましょう。


「ここのケーキはとても美味しいんですよ、ぜひ食べてください」


 私がそう促しますが、彼女はケーキに中々手を付けてくれません。


「……ほむらさん、この世界の方ではないですよね?」


 私がそういうと、さすがに驚いたのかほむらさんの顔つきが少し険しくなり腰の刀に手を触れました。


「異界門の管理者ですからね、ある程度察しがつくんですよ。別に異界の方だから取って食べてやるとかそういう意味で言ったのではないですよ。むしろ困っている異界の人を助けるのが私の仕事なので、その物騒なものから手を放してフォークを持ってケーキを食べてください」


 今にも刀を持って切りかかってきそうなほむらさんに刀ではなくフォークを持てと諫めたところでようやく口を開いてくれました。


「……助けるとはどういう意味だ?」

「文字通りですよ、元の世界に帰りたいと言っている異界からの迷い子を元の世界に帰してあげたり、帰らないことを選択した方にはこの世界で生きていくために必要な情報を与えてサポートするという感じです」

「貴様は私をこの世界に連れてきた張本人だろう!」


 なるほどー、これはとんでもない誤解を受けていますね、困りました。


「私はそんなことはしていないですね。どうしてそんな話になっているのでしょうか? 差し支えなければほむらさんがどういう経緯で私の元に来られたのか、どういう経緯でこの世界に来てしまったのか教えていただけますか?」


「それは……」


 すこし思案していたものの、ほむらさんはようやく口を開いて話し出してくれました。


「……あたしはもともとお前が異世界といっているこことは違う別の世界で国に雇われていた忍だ。仕事の最中突然雷に打たれたような電撃が走り、気づいたらぼろい部屋の中だった」


 なるほど、雷に打たれたようなというのは比較的よくある転移パターンです。


「それでその後はどうされたんですか?」

「その部屋の中に人がいて、そいつは自分のことをフルカスと名乗ったが、小屋の中も暗く、体もろくに動かせなかったので顔を見てない。ただ、そいつは帰りたければシルヴィクのアトを殺せとだけ言って消えた」

「消えた?」

「あぁ、まばたきする間に気配ごといなくなったんだ」


 物騒な話ですね、消えたというのは何かの魔法でしょうかね。


「それでそのよくわからない怪しい人物の口車に乗って私を殺しに来たと?」

「それしか情報がなかったからな、まずはお前を拘束して情報を聞きだそうと思ってたんだ」

「その割には正門で対面した時はきっちり首筋狙って殺しに来てましたけどね?」


 はっきりとした殺意のこもった攻撃だったので、少しいじわるな気持ちも込めてほむらさんに問いかけると、ほむらさんも淡々と言葉を続けました。


「初手で動きを制されたからな。対峙してみて圧倒的な実力差は分かった。だから殺す気でやらないと殺されると判断しただけだ。実際本気でやってもこの様だからな」

「こちらとしては殺すつもりもなかったですけどね。初めからそう言っていただければよかったのに。では改めてあなたの状況については私がわかる範囲でお伝えしますね」


 そうして私はほむらさんが他の世界から来た異世界人、迷い子であること、帰ろうと思うのであれば私を殺さずとも簡単に帰すことができることを説明しました。


「そうか……まあ小屋にいたあいつは怪しいとは思っていた。とは言ってもお前のことを完全に信用しているわけではないので勘違いするなよ」

「うーん、新手のツンデレですか?」

「ツンデレ?」


 さて冗談は置いておくとして、近頃迷い子が増えていましたが、何だかいかにも怪しげなそのフルカスという人物が絡んでいる気がしますね。直接話を伺いたいところです。


「異界門の管理者というのは異界移動、転移の管理を司っています。もしそのフルカスという人物が意図的に別世界の人間を転移させていたなどあれば問題があります。顔は見ていないとのことでしたが、声は覚えていますか?」

「聴けばわかるかもしれないが……」

「ではここからはお願いになりますが、そのフルカスという人物を探すことに協力いただけませんか?」


 フルカスという人物を探すにしても名前、しかもおそらく偽名と思われる名前だけで探すのはとてもめんどくさいです。もしほむらさんが協力してくれるのであれば少し楽ができそうだなぁと思ってダメ元で聞いてみました。


「……そうだな、そいつがあたしをここに無理やり連れてきたのなら話を聞いて始末つけてやろうとは思っていた。だから探すのに協力はする、がお前のことはまだ完全に信用していない、もう少し詳しく話を聞かせろ」


 さらに確証を得るためか私に情報を求めつつも、協力してくれると回答してくれました。思ったよりすんなりと了承してもらえてこれは助かりました。


「ありがとうございます。お話ももちろんかまいません。ネイヤさん! 日替わりケーキ追加で1つずつ! フルーツティーも2つお願いします!」

「あいよ!」

 

 そこから私たちは追加のスイーツを食べながらほむらさんが納得するまで情報交換ティータイムを満喫することにしました。

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