第11話 王都行道中
異界門のある街シルヴィクはアルドニア王国の本土から離れた数十キロ四方の離島に位置しています。つまり王都に向かうには海を渡る必要があるため私とほむらさんはシルヴィクを出て港に向かったわけです。
とはいえシルヴィクを囲む四方の海は世界一の荒波で船乗りの間では『船喰い海峡』呼ばれています。小型のボートなどで乗り出せば一瞬で海の藻屑と化します。
まあ、今回は船には乗らずに空から行くのでここまでの説明は無意味ではありますが。
「飛んでる……」
ほむらさんが足元に青く広がる海、白くうねりを上げる大波を見ながらそう口にしました。
「海路より空路の方が楽で早いですからね」
ゆったりとした海路の旅というのも楽しくはありますが、今回はさっさと終わらせて帰りたいので速度優先です。
「空を飛ぶのはこの世界では簡単なのか? アトがすごいのか?」
「“
「この世界は飛ぶのが普通なのか……」
初めてのフライトにほむらさんが目を丸くしていたところ前方から大きな鳥が飛んできました。
「おいアト! 前! 危ない!」
「この海域で餌を狙っている海鳥ですね」
「『海鳥ですね』じゃないだろ! 体長5mぐらいあるぞ!? どうみても化け物……」
ほむらさんが叫ぼうと、いやすでに叫んでいたところ海鳥が口を大きく開けて私たちの方へ突っ込んできました。
「おっと」
間一髪のところで横にそれて回避することができました。さすがに食べられると面倒です。
「海路は海路で難所ではあるんですが、空路は空路で生態系のトップ争いにしのぎを削る化け物が空路にはいるんですよね。今のは危なかったですね」
笑いながらほむらさんに語りかけると、まるでおかしな人間を見るかのような表情で『生きて辿りつけるんだろうか……』とつぶやいていました。
その後も何度か空路の生物たちにほむらさんが心地よい悲鳴を響かせているのを聞きながら優雅な空の旅を楽しみ、時に雑談も交えながら青い空を駆けているとようやく陸地が見えてきました。
「王都が見えてきましたね、『このまま王城までひとっとび!』と行きたいところですが、もしこのまま突っ込むと間違いなく文句を言われるので手前で降りて歩きましょうか。ほむらさんもこの世界に転移してきてから遊んでないでしょうし観光しながら向かいましょう!」
「観光……は確かにしていないがそんなまったりで良いのか?」
「かまいませんよ! 急ぎとは言っても行く道すがらお店を見るぐらいですから。王都には美味しいものも多いですしせっかく来たので楽しんでいきましょう!」
『だったら、こんなスリリングな空の旅じゃなくてよかったのでは……』などとぼやいているほむらさんをスルーしつつ、私は王都の城壁の手前ほどまで飛行した後、そのまま地上に降りました。
「さあ、ようやく到着です。改めて空の旅はいかがでしたか?」
「……色々ありはしたが、想像してたよりは快適だったな。港に着いたときに手を取られて『では飛びますね』で雲を突き抜けたときは正直死んだと思ったがな……」
地上に降りてから城門の方に向かいながら初めての空の旅の感想を聞いていたところほむらさんが少し難しい顔をしていました。
「そんなに、空の旅が新鮮でしたか?」
「いや、そういえば王都の門はどうやって通りぬけるつもりなのかと思って……どこかからバレないように侵入するか?」
「こそこそする理由ないですよ、こちらは招集を受けてわざわざ赴いてるんですから」
「アトはこの世界の人間だから問題ないだろうが、あたしは住所不定無職の異界人だぞ?」
心配するほむらさんをよそに王都の門にいる門番に声をかけました。
「門番さんこんにちは、国王陛下から呼び出されましたので通してもらっていいですか?」
「ん? 国王陛下から呼び出されたって、お嬢さん方名前は? 身分証あるかい?」
「異界管理局のアトです。こちらは私の連れのほむらといいます。異界人なので身分証はありませんが私が身元保障しますので合わせて通してください」
私は自分の身分証を門番の方へ提示しながら身元を証明しました。
「異界管理局局長さんでしたか!? 大変失礼いたしました! お連れの方含め通っていただいて大丈夫です。すぐに連絡して開門するので少しだけおまちください!」
身分証を見せた門番の方がバタバタとしながら他の門番の方に声をかけながら開門してくれました。
「ほら、だから言ったでしょ? 別に怪しいことしにきたわけじゃないんだから言えば通れるんですよ」
「さっきの反応はそれだけではなかった気もするが」
ほむらさんが何か言いたげな目をしてこちらを見つめていました。異界門管理局は国王に作られた組織なので気にする人は気にしますが大それた組織ではないのでほむらさんの思い違いです。
「アト局長、開門完了いたしましたのでお通りください。大変お待たせいたしました」
「ありがとうございます。では、王都についたのでまずは昼食にしましょうか? 私の好きな料理屋があるので紹介しますよ!」
「確かに腹は空いてきたな、とりあえず腹ごなしというのは大賛成だ」
門の中、王都へついに踏み出したところ、前方の方でかなりの人がごった返しているのが見えました。
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