第5話 帰り支度

「ふわぁ~」


 よく眠れたのかはわかりませんが、窓から日が差し込んできて目が覚めました。

 起きてすぐにニルカさんの様子を見に行くと、ちょうど目を覚ましたところだったようです。


「おはようございます。気分はいかがですか?」

「ここは……」

「私はアト。ここは私の家です。昨日一度意識が戻ったときに挨拶はしましたが、倒れて担ぎ込まれたニルカさんを治療しました。その後疲れていたのかニルカさんは再度眠ってしまわれて今は翌朝です」


 昨日目を覚ましてからすぐに寝落ちてしまっていたので改めて状況説明と合わせて自己紹介を済ませました。


「そうでした……アトさんでしたね、ありがとうございます。わたしお金も何も持っていなくって……」

「いえいえ、お金なんていらないので安心してください。それよりお腹空いてませんか? パンがあるので朝ごはんにしましょう! お茶も入れていますのでこちらへどうぞ」


 食事を私がどうぞ! と食事を促すとお腹が空いていたのかニルカさんはベッドから立ち上がりペコペコしながら椅子に座って食事を始めました。


「食事をしながらで大丈夫なので改めてニルカさんがどこから来たのか教えていただけますか?」


 昨日聞いた内容ではありますが、ニルカさんの疲れも取れて意識もはっきりしているようなので確認の意味をこめて改めて聞いてみました。


「はい、エルドニア王国のエスタから来ました……でもどうやってここに来たのかよくわからなくて……気が付いたら森のような場所に倒れていて、光の差す方に歩いていたら森を抜けて道に出ました。そこから記憶がなくって気が付いたらアトさんにお世話になっていました……」


 ニルカさんはそういうとチラっとこちらを見て申し訳なさそうにそのままうつむいてしまいました。


「ありがとうございます。食事の後に順を追って説明するので驚かずに聞き流していただければよいのですが、ここはニルカさんが住んでいた場所からとてもとても遠くの場所になります。森に倒れていた経緯は不明ですが、ニルカさんをエルドニアへ送ってあげることはできるので安心してください」

「遠い場所……でも帰れるんですね、良かった……」


 ニルカさんは帰れることがわかり緊張の糸が切れたのか目に涙をためながら、良かった、良かったとつぶやいていました。


「帰れるので大丈夫です。朝のうちに帰る準備をしてそこから私が送りますのでまずはゆっくり食事をしてください。食事が終わったら二階の一番奥の部屋まで来ていただけますか?」


 彼女を帰す前に正しく今の状況をお伝えしておく必要があるので私はニルカさんに後ほど部屋に来るように言って自室へ戻りました。



 私が部屋に戻って準備をし、1時間ほど経った頃、3回ノックの音がして食事を終えたニルカさんが部屋に入ってきました。


「失礼します……」

「ずいぶん早かったですね、少しはリラックスできましたかね?」

「はい、食事をいただいて少し落ち着いたと思います」


 そういうニルカさんの顔を見るとまだ少し不安気ではありましたが顔色は確かに今朝起きたときよりも少しだけ明るさを取り戻しているように見えました。


「それは良かったです。それではニルカさんをエルドニアへ帰すために少し詳しいお話をしておきます。よくわからないままだと帰る際に不安になるかと思いますので」


 私はそういうと、ニルカさんが異世界から来てしまっていること、私は異世界から来た人を元の世界に帰す仕事をしていること、ニルカさんが元いた世界に帰るための情報を少し調べさせてもらうことを説明しました。


「少し検査の時間はいただきますが、確認が取れれば元の世界へ戻れるのでもう少しだけおつきあいください」


 ニルカさんは説明したときこそ混乱していましたが意外とすんなりと受け入れてくれました。若いというのは柔軟性があってとても助かります。


「すぐに終わるので椅子にかけてリラックスしてください」

「……はい」


 先日来た獣耳大好きおじさんのように迷い子ではない方が来る可能性もあるので、念のため本当に異世界の方か検査して異界門を適切に利用することが重要になります。先日の獣耳大好きおじさんは調べるまでもありませんでしたが……

 私は椅子に座り目をつぶっているニルカさんの額に指をつけました。


「”心層哨界”」


 管理者権限を持ってスキルを発動するとニルカさんを中心に術式法陣が広がります。それと同時に私の中に彼女がもつ世界の情報が流れ込んできました。


「はい、おつかれさまです。検査は終了です。ニルカさんが元いた世界の探索をしますので一緒に異界門まで行きましょうか」

「もう終わりなんですね」

「ニルカさんのいた世界の情報を見させていただきました。あとは異界門の座標をその世界に合わせて移界、つまり帰ることができますよ。この後すぐに帰ることになりますが問題ありませんか?」

「あ、そういえば私を助けてくれた衛兵の人がいたと思うんですが、その人にお礼が言えてなくて……」

「クランさんですね、あの人は別にいいですよ」

「アトさんおはようございます!!」


 家のドアが開く音がして元気なおはようございますと共にクランさんがやってきました。


「別にスルーして良いですよと言いたかったのですが、ちょうどいらっしゃったみたいなので一緒に異界門まで行きましょう」


 やってきたクランさんにニルカさんが挨拶とお礼をし終えたところで、お二人と一緒に異界門まで向かいました。

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