SCENE-003 角無しの金龍と既視感
朝のお勤めを終えた双子が、帰りはのんびりと石階段を下りはじめる頃。
八坂の里の上空に、
「
蛇から
護家の護人として対峙する可能性のある妖について、その生態や対処の仕方を余すことなく教え込まれている伊月は、空を飛ぶ角無しの龍を一目見て、それが
一夜にして一つの街を滅ぼしてのける脅威。
まともに考えて、護家の護人だろうと国津神を親に持つ神子だろうと、伊月や鏡夜のような
それだけに、だいぶ歯応えのありそうな獲物だな……と。伊月は値踏みするよう不躾な視線を、空の低いところをゆったりと飛んでいる角無しの金龍へと向ける。
(というか、あれって……)
真性竜種――倭国には存在しない正真正銘のドラゴン――ほどではないにせよ、〝
そんな龍の姿を、伊月が目にするのは今日が初めてのことであるはずなのに。
水の中を泳ぐ蛇のよう体をくねらせ空を飛ぶ龍の姿に、妙な既視感を覚えて。
(私、
八坂神社の本殿がある小山の麓へと続く石階段の途中で、知らず知らずのうち、伊月は足を止めていた。
陽の光を受けて黄金色に輝く鱗がまばゆいほどの龍。
その姿を見れば見るほど、そこはかとない
「伊月?」
どうかしたのと、かけられた声にも気付かずに。
自分の中にある既視感と不快感の正体を求めて。もうすぐそこまで迫ってきている金龍を、伊月は凝視した。
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