SCENE-003 角無しの金龍と既視感


 朝のお勤めを終えた双子が、帰りはのんびりと石階段を下りはじめる頃。

 八坂の里の上空に、それ・・は黄金色に輝く躯体をうねらせ飛来した。




角無し・・・の金龍……」

 蛇からみずち、蛟から龍へと至った妖には五百年ほどで角が生えてくる。


 護家の護人として対峙する可能性のある妖について、その生態や対処の仕方を余すことなく教え込まれている伊月は、空を飛ぶ角無しの龍を一目見て、それがよわい千五百はくだらない〝災害級ハザード・クラスの人外〟だと理解した。




 一夜にして一つの街を滅ぼしてのける脅威。

 徒人ひと人外ひとでなしの区別なく、災害級ハザード・クラスと呼ばれるのはそういう存在で。


 まともに考えて、護家の護人だろうと国津神を親に持つ神子だろうと、伊月や鏡夜のような徒人ただびと――大まかな括りで〝長命種メトセラ〟と呼ばれる人外ひとでなしほど長くは生きられないうえ、扱うことができる魔力量にも限りがある短命種――が真っ向から戦って敵う相手ではない。


 それだけに、だいぶ歯応えのありそうな獲物だな……と。伊月は値踏みするよう不躾な視線を、空の低いところをゆったりと飛んでいる角無しの金龍へと向ける。


(というか、あれって……)

 真性竜種――倭国には存在しない正真正銘のドラゴン――ほどではないにせよ、〝竜類りゅうのたぐい〟とされる龍もまた、稀少な存在であることに違いはない。


 そんな龍の姿を、伊月が目にするのは今日が初めてのことであるはずなのに。

 水の中を泳ぐ蛇のよう体をくねらせ空を飛ぶ龍の姿に、妙な既視感を覚えて。


(私、あの龍・・・を見たことがある……?)

 八坂神社の本殿がある小山の麓へと続く石階段の途中で、知らず知らずのうち、伊月は足を止めていた。




 陽の光を受けて黄金色に輝く鱗がまばゆいほどの龍。

 その姿を見れば見るほど、そこはかとない不快感・・・がこみ上げてくる。


「伊月?」

 どうかしたのと、かけられた声にも気付かずに。

 自分の中にある既視感と不快感の正体を求めて。もうすぐそこまで迫ってきている金龍を、伊月は凝視した。




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