SCENE-002 朝のお勤めへ


 夜の間は護家ごけの護人として夜狩に出ている双子の朝は遅い。

 双子の父親であり、護家八坂やさかの家長でもある襲が煩く言わないことも手伝って、朝の仕度ものんびりとしたものだった。




 母屋で食事をとり、その片付けまで終えた双子は自分たちの部屋がある離れへ戻ってくると、ようやく寝間着から着替え、揃いの神子装束みこしょうぞくに身を包み、朝のお勤めのために家を出る。




 立派な長屋門があり、離れがあり、蔵もある。

 土塀と水堀に囲まれた家の敷地から出ると、双子は示し合わせたよう、朝の鍛錬――軽いウォーミングアップ――がてら田舎道を駆けだした。


「今日は負けた方が水汲みね」

「はいはい」




 男女の双子でありながら、十四にもなって背格好がほとんど変わらない伊月と鏡夜は、能力面においても拮抗している。

 そのうえで、何かにつけて負けず嫌いな伊月と、勝負事の勝った負けたにこだわりのない鏡夜が罰ゲームをかけて競争をすれば、どうなるか。




 家の裏手にある小山の頂上まで続く石階段――八坂の御神木が根を下ろす、八坂神社への参道――を駆け上がっていく双子のうち、ゴールに見立てた鳥居を先にくぐり抜けたのは、案の定、水汲みのことを言い出した伊月の方だった。




「私の勝ち」

 ちょっとした勝負事でも負けたくない、という気持ちの差で勝っているに過ぎない伊月は、その自覚がありながら、最初からたいしてやる気の無かった鏡夜のことを得意顔で振り返る。


「僕の負けだね」

 お互いの熱量が釣り合っていなくとも、勝ちは勝ち。負けは負け。


 その点に関して、鏡夜にも異論は無かった。


「じゃあ、水汲みはよろしくー」

「うん」


 伊月ほど懸命になれなかったというだけで、手を抜いたわけではない。


 その証拠に、伊月からほんの数歩遅れただけ、という僅差で鳥居をくぐっている鏡夜はさりとて、ていよく仕事を押しつけられたことに、これといった不満を抱くこともなく、やる気の無い弟との競争に勝ったくらいでご機嫌になっている姉の背中を追いかけた。

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