第48話 露見
ドロテアが立ち去るとアイリスはそっとベッドから立ち上がり医務室から抜け出した。
まだ傷口はズキズキと痛いが、痛み止めも飲んでいる為、先程より大分マシになっていて、一人で歩ける迄には回復していた。
なのでアイリスは、レナードが眠っている自身が閉じ込められていた尖塔の部屋へ急いで向かおうとしたのだが、最悪な事に医務室を出たところで、会いたくない人物に出会ってしまったのだ。
「おや?もう動いて良いのかい?傷が深いから一晩は安静にしてるようにと医務室に待機ではなかったっけ?」
「アーネスト殿下……」
彼はまるで、アイリスが部屋を抜け出すのを予測してたかのように、医務室の直ぐ側で待ち構えていたのだ。
「レナードの所に行くんだろう?僕も一緒に行くよ。」
「いっ、いえ……自室に着替えを取りに行くだけですわ。」
アイリスは咄嗟にそれらしい嘘をついた。アーネストにレナードの秘密を知られる訳にはいかなかったのだ。
けれども、アイリスにはルカスの様にポーカーフェイスで振る舞うのは難しかった。アーネストから目を逸らすと、明らかに動揺した様子を見せてしまったのだった。
「ふぅん。そっか。じゃあ僕は一人でレナードの様子を見に行くよ。」
口ではそう言うものの、アーネストは明らかに納得していなかった。
不機嫌そうな顔でアイリスを眺めた後、何か思いついたのか、ニヤリと笑って世間話を続けたのだった。
「ところでさ、あの尖塔の入り口って、癖のあるカラクリで初見では絶対に開けられないって、君は知ってるかな?」
「いえ……存じませんでした……」
「それで、君は自室に戻るのかな?」
「……アーネスト殿下にご一緒します……」
アイリスは気絶させられてあの尖塔の部屋に運ばれたので、当然入り口のカラクリの解除の仕方など知らないのだ。
不本意ながら、早くあの部屋に戻る為に、アーネストに同行する事にしたのだった。
***
尖塔の部屋の前まで戻ると、アイリスはコンコンとドアをノックした。
すると中から返事があった。ルカスの声だった。
「……どなたですか?」
「あっ……アイリスです……」
アイリスの返答に、ガチャリと扉が開いて、中からルカスが顔を出した。
「アイリス様、傷は大丈夫で…………アーネスト殿下が何故ここに?!」
彼は、アイリスの姿を見ると同時に、その横にアーネストの姿を見つけて、狼狽したのだった。
「やぁ。変な倒れ方だったからね。レナードの様子が気になって。」
ニコニコと笑うアーネストの横で、困惑した顔で、アイリスは首を横にフルフルと振った。
彼をここに連れてきてしまったのは不可抗力だったのだと、ルカスに主張したかったのだ。
「……ねぇ、なんでレナードはさっきと同じまんまの姿勢で床に寝ているのかな?」
「……起こすと悪いので、動かしていません。殿下は寝不足でしたから。」
「それで、床に寝かせたままだと?直ぐ横にベッドがあるのに?」
「左様でございます。」
「……ルカスさぁ、自分で言ってて無理あると思わない?」
「何のことでしょうか?」
もはやアーネストはルカスの言うことなど何も信じていなかったが、それでもルカスはあくまでもレナードは寝不足だから床で寝ているだけという主張を貫いたのだった。
ルカスの頑なな態度に、アーネストは心底面倒臭そうな顔をすると、徐に床に横たわっているレナードに近づいて身を屈めて寝ている彼に手を伸ばした。
「アーネスト殿下、何をなさるおつもりですか?!」
「この体勢じゃ、余計に身体に負担になるよね。君が動かさないのなら、僕がベッドに運んであげるよ。僕は優しいしね。」
「あぁ!ダメです殿下!!」
ルカスの制止など勿論アーネストが聞くわけがなかった。彼は床に寝ているレナードの肩を掴むと、その上半身を持ち上げようとした。
……しかし、レナードを動かす事は出来なかったのだ。
アーネスト自身、身体を鍛えている事もあって力もそれなりにある方なのだが、それでもレナードはその場から全く動かなかった。
「……なんなんだコレは。びくともしないぞ。それに身体を触られているのにレナードも全く起きる気配もないし……コレは呪いの類ではないのか?……おい、答えろ?!」
「……殿下のご推察通りです。」
ルカスは観念してアーネストの推察を認めた。ここまで知られてしまっては、もはや誤魔化せなかったのだ。
##予約投稿間違えて、変なタイミングでこれより先の話が公開になっていました。
その話は一旦取り下げました。しおりを挟んでいた方申し訳ありませんでした。
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