第49話 アーネストとの交渉
「……なるほど、それで彼女が関わってくるのか。サーフェス家の月の魔力が。」
「……左様でございます。彼女の魔法で、一時的に呪いを解く事が出来ます。」
アーネストにレナードの呪いのことをつい知られてしまった為、ルカスは変に隠し立てせずに正直に彼の問いに答えた。
するとアーネストは、その答えがお気に召さなかった様で、まるでお気に入りのおもちゃを取り上げられた子供の様な不機嫌そうな顔になると、そっけなく言ったのだった。
「なんだ、本当に仕事で側に置いていただけなのか。つまらないな。レナードのお気に入りだと思ったから、ちょっかいをかけていたのに。」
以前レナードが言っていた通り、アーネストはレナードが嫌がることばかりして、彼の反応を楽しむ所があったのだ。
なので前にアーネストがアイリスを呼び出したのも、純粋に、自分がお気に入りの侍女に接触すればレナードは嫌がるだろうと思ってのことだったのだが、アイリスの真の役目を知って、その目論見が的外れであったと分かり機嫌が悪そうだった。
しかし、アーネストは何かを閃いたみたいで直ぐにパァッと顔を明るくすると、想定外なことを言い出したのだ。
「そうだ!どうせならその解呪してるところを僕に見せてよ。」
アーネストは、何か面白い事を期待する様なキラキラした笑顔で、アイリスを見ていた。彼の興味はアイリスが使う月の魔法に移っていたのだ。
「無理です!人前でするものではございません!!」
「ふぅん……?僕は純粋に月の魔法というものが見てみたかったのだが、それは何かとても人に見せられないような事なのか?」
「それは……その……。どうか、お許しください。」
いくら王族からの頼みであっても、この解呪をしている所を、アーネストに見せる訳にはいかなかった。アイリスは必死に頭を下げて、それはどうしても出来ないから諦めて欲しいと懇願したのだった。
「……僕も鬼じゃないから君がそこまで言うのなら無理強いはしないけど、でも、僕に諦めさせるのならさ、君は代わりに僕が興味を惹かれる何かを提供するのが筋ではないかな?」
そもそも、アーネストに解呪している所を見せる義理は無いのだからそれは無茶苦茶な理論であったが、アイリスは大人しく従った。それでアーネストの気をそらせることが出来るのならば、大変有り難いのだ。
「分かりました。殿下は、月の魔法がどういったものかを知りたいのですよね?であれば、殿下ご自身に、何か私が使える魔法をおかけしますので、それでご納得していただけないでしょうか?」
「例えばどんな?」
「そうですね……。よくない事が起こらないようにするおまじないとか、自身を魅力的に魅せるおまじない、嫌いな人を遠ざけるおまじない……」
「なんだか抽象的なものばかりだな。」
「私が使える月の魔法はこんなものですよ。」
「まぁいいや。それじゃあ、嫌いな人を遠ざける魔法ってのをかけて貰おうじゃないか。」
「承知いたしました。」
アイリスは彼が納得してくれた事にホッとすると恭しく頭を下げて、アーネストに従った。そして彼の前に跪くと、両手を組んで祈りを捧げたのだった。
「……特に何も変化もないし何も感じもしなかったけど……」
アイリスが魔法をかけ終わると、アーネストは訝しそうな顔をして、自身の身体を見渡した。特に変わった事は何も無いようだった。
「目に見えるものではございませんので。」
「これの効果はどれくらいなの?」
「大体、一日程度です。」
「そうか。じゃあまぁ、明日のこの時間までに一体どんな変化が出るか、試させてもらうよ。」
それからアーネストはルカスの方を向くと、ニッコリ笑って、威圧を放ちながら念を押した。
「取り敢えず、今日のところはそれで退いてあげるけど、ルカス、この貸しは大きいからね。レナードが目覚めたら伝えておいてね。」
「それは……レナード殿下ご自身も分かっていることかと思います。承知いたしました。」
そう言ってルカスが深々と頭を下げるのを見ると、満足したかの様に、アーネストはやっとこの場を去ってくれたのだった。
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