第27話 聖樹教会
「此処が聖樹教会··········か」
ティアは聖樹教会を見て、改めてそこが目的地の聖樹教会だと実感しながら呟く。
ルカとティアは聖樹教会の前に立っていた。
聖樹教会からは、不気味や雰囲気を放っていた。 身震いするような、何とも形容し難い雰囲気を漂わせている。
「うん」
ルカは頷き、ティアの顔を見上げる。
見ていた事に気が付いたのか、ティアが此方に視線を落とす。
「行くぞ」
信頼した、信用足りる存在に呟く口調でティアはルカに指示をする。
ルカは頷いて承諾する。彼女と共に行動してから、既に答えは決まっていた。
自分の身は彼女と共にあると。
「ティアの背中は任せて」
無機質で透明な声で、ルカはティアに宣言した。
その言葉を受けたティアは、硬直している様子であった。そしてその後に、ふっと鼻で笑った。
「あぁ··········任せた」
どうやら、信頼足りる存在となったようだ。
まぁこの殺伐とした世界では、戦わない者から死ぬ。彼女の言葉が本当ならば、自分は戦い続けているから得た信頼になるのだろうか。
ルカはこれ以上深く考えないようにして、前を見据えた。
ティアは背負っているクレイモアを抜いて、先頭を歩き出す。
ルカも見習うように、大剣を抜いてティアの後を行く。
広場で聞こえる喝采が聞こえるが、この辺りは異様に静かなため、二人の足音しか聞こえない。
両扉の前に立ったティアは、肩越しに振り返る。
「いいか?行くぞ」
「うん」
ルカは頷いて承諾する。
その返事を聞いた後、ティアが両扉を開けた。
扉の軋む音を奏でながら、重厚感のある扉を開けて中に侵入する。
中に侵入すると異様な光景が広がる。
身廊の両端に、天蓋付き寝台が複数並んでいた。教会の最奥にある内陣には祭壇があり、その上に樹木に祈りを捧げる人の像が見える。
「なんだ··········これは··········」
その異様な光景にティアが呟く。
ルカは周囲を見渡して、仄暗い空間を眺める。
ルカは教会とはこういうものなのか、という認識くらいしか持たない。
天蓋付き寝台の中が気になり、歩み寄った。中は人が横たわっていた。横たわって居ただけなら、まだマシだったのかもしれない。
そこに居たのは、何とも醜い姿になった人であった。仄暗い空間でも、光る赤い目玉が複数ある。口は裂けて、大きく開いて笑みを浮かべている。両手両足を枷で繋がれ、天蓋の柱に括り付けられている。
これが元人間だと言われて、誰が信じるだろうか。でも人間であるという証拠に、脚や胴体は人のままであった。顔だけが醜く変貌しているのだ。
「灰を摂取した末路··········という事か?」
一人で進んだルカが心配になり、後を追ったティアがルカの後ろから天蓋付き寝台の中を見ながら呟く。
「灰を··········摂取?」
「お前を助けた時、覚えているか?あの怪物が灰を吸った末路。だが、これは食物などにより体内に灰を取り入れた者だ」
ルカはティアと会った時の事を思い出しながら、話を聞いた。
どうやら、呼吸する以外にも灰は取り込まれるようだ。でも、疑問が残る。
「なんでそんな人達がいるの?」
「そうだな。私も同じ事を思っていた」
ティアは腕を組んで、思案を巡らせていた。
その間にもう一度、ルカは天蓋付き寝台で寝ている者を見る。
顔が歪なだけで、特に変わった様子は伺えない。
灰の摂取は、呼吸よりも進行速度が遅いのかも知れない。
ルカはそう判断を下す。
「治療目的ならば、隠す必要が無いから··········直接聞くしか無いようだな」
誰に?とは聞かない。聞く必要が無かった。
身廊の先、左翼廊から足音が響く。その足音の次に、甲高い金属音が鳴り響いた。
「あああぁぁぁぁぁぁ!!」
「大司教様!大司教アルカナ様!」
「どうか、どうか助けてください!」
その金属音が鳴り響いた直後、先程まで寝ていたであろう者達が一斉に叫び出した。
発狂のそれに近い叫び声は、耳をキーンと鳴らす。思わずルカは片耳を塞ぐ。
天蓋付き寝台から内陣の方へ、視線を向ける。
誰もいない中央交差部に、左翼廊から姿を現す。
白い聖職者の装束に身を包み、
「そこに、誰かいらっしゃるのですか?」
仮面をしていても分かるほど、綺麗な声が喧騒の中聞こえる。
ルカはティアと視線を合わせて、頷きあった後天蓋付き寝台から横に移動して、身廊に立つ。
「迷子··········という訳では無さそうですね?私は大司教アルカナ。聖樹教会に何用ですか?」
アルカナは礼儀正しく、自己紹介をする。気品のある挨拶は、余裕のある立ち振る舞いを表すには十分だ。
「此処に並ぶ彼らはなんだ?」
ティアはクレイモアを握り締め、何時攻撃が来てもいいように構えながら問うた。
それとは対照的に、アルカナは構えもせず冷静であった。
「彼ら··········ですか?治療··········という名目で保護しています」
「名目?その言い様では、本当は違うと言ってるように聞こえるが?」
何処まで対話が出来るか、ティアは相手を伺いながら質問をする。
こういう事に関しては、ティアの方がお得意と言えよう。ルカは黙って、二人の会話を聞く。
「··········貴女方は··········もしかして、情報屋の依頼主··········ですか?」
「そうだと言ったら、お前は私達を殺すか?」
「場合によれば··········求めているものによります」
「··········私達の求めているものは、お前達が隠すもの全てだ。此処で何をしている?治療では無いのだろう?」
ティアは求めているものを開示する。
ならば、あちらもそれ相応の対応をするだろう。しかしアルカナは、沈黙したまま動きが無い。
「そうですか。なら、着いてきてください。ここでは彼らの迷惑になりますから」
彼女はそう告げ、中央交差部から右翼廊へ歩いて行く。
ルカとティアは頷いて、身廊を歩いて行き彼女を追った。
右翼廊の最先端には、内陣にある祭壇と同じ偶像が置かれている。その下に入り込む形で、地下に続く階段があった。薄暗く薄気味悪い。
アルカナが着いて来いというのだから、大人しく着いて行けば良いのだろう。
「置いて行かれるなよ?」
「うん」
ティアを先頭に、石階段を一段ずつ下っていく。
その階段は酷く長いように感じた。
薄暗いからだろうか。それとも光源が一個も無いから、余計に長く感じるだけだろうか。
真相は分からないまま、ルカは最後の階段を下りた。
階段を下りた先は、仄暗い空間が広がっていた。光源は多少あるようで、壁に沿って暖色の光を灯していた。
周囲を見渡すと、大きな石が散らばっていた。崩落によるものだろうか。
「ここは··········地下墓地か?」
周囲を眺めていたティアが呟く。
どうやら、ここは地下墓地のようだ。
ルカは認識を改める。とはいえ、地下墓地がどのような場所なのかさっぱり分からない。
ティアに聞くか聞かないかを迷っている中、あるものに目が行く。
地下墓地の最奥、アルカナの後ろに木の根のような物が見える。
この辺りに木なんか埋まっていただろうか。
「ルカ··········この辺り、木は埋まっていたか?」
「埋まっていないように思うけど?」
「だよな··········なら、あれはなんだ?」
ティアも同じようで、自分に再確認して来る。
自分の記憶が正しければ、埋まっていないはず。なら、あの根は何なのだろうか。
更によく見てみれば、根の周囲には干からびた人が複数いた。
「はは…………随分と悪趣味だな?聖樹教会というのは…………」
ティアは信じられない物を見るような口調で呟いた。
アルカナが振り返り、此方を見据える。
「これは
「贄··········なぜ、そんな事を?」
「それは分かりません。私も··········聖樹教会の被害者ですから··········」
アルカナは俯いて呟いた。
ティアは左手を強く握りしめた。
「情報屋を殺して、死体を晒して··········被害者だと?」
「─────··········ッ」
アルカナは息を呑んだ。
「私がそんな依頼を出してしまったばかりに··········彼を殺してしまった。なら、私が彼の仇を討たねばならない!」
「えぇ··········貴女には、その資格があります。お互い、到底理解出来ない壁があります。仕方の無い事なのです」
だから、と。アルカナは言葉を区切った。
仮面を外して、片刃剣の剣先をこちらに向けて構えた。
「私は··········貴女方を殺さなければならないのです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます