第一章 05

「シエラ、お昼はいつものところで食べる?」


午前の授業が終わると、ユティが私の席まで来てくれた。

“いつもの場所“とは敷地内の奥にある庭園の小さなガゼボのこと。


奥まったところにあるため、あまり学生にも知られていないのか静かでお気に入りの場所。


「いろんな人から今朝のこと聞かれるんじゃないかって、休み時間のたびに気を張ってたからなんだか疲れちゃった…」

「大丈夫よ。公爵家のシエラに直接聞ける人なんてあまりいないもの」

「…絶対とは限らないじゃない」


私が通う学園は貴族の学び場ということもあり、爵位の縦社会が必然的に存在している。


「まぁ、シエラと同じ公爵家や侯爵家の人なら聞いて来るかもしれないけど、まだ何もわからない状態での追求はしてこないでしょ」


“彼女たちプライドが高いから”っとユティはっきり言い放つ。


「氷の皇太子と言われているけれど、グレイ殿下は容姿、地位、能力と全てを備えているから令嬢たちから人気は高いからね」


ユティが言う通り、殿下の人気は高く今までに女性の影もなかったため狙っている令嬢はかなり多い。


「で、そんな人気者のグレイ殿下との今朝の一件は?」

「………殿下の婚約者候補になりました」

「は?」


その気持ちわかります。

私も婚約の話を聞いた時は同じ気持ちになったもの。


その後私は一つ一つ殿下と何があったのかを説明していった。


「うん、理解はできた。因みにシエラ以外の候補者って誰が上がっているの?」


その他………。

誰だろう。


考えたことがなかった。


「わ、分からない」

「でもさ、もし候補者がシエラだけならほぼ確定じゃん」


“婚約者“の肩書きから逃れることに必死で盲点だった。


ユティの言う通りいくら今が婚約者候補でも、その候補が私だけなら実質婚約者で未来の皇太子妃だ。

殿下は婚約者候補でいいと言ってくれたが、これからは私と一緒に登校すると言っていたから他に候補者を選んでいるとは考えづらい。


「…殿下に聞いてみる」


気持ちは沈んでもご飯は美味しい。

美味しいご飯と、変わらず私のそばにいてくれるユティに感謝しながら今のこの時間を楽しもうと思ったが、叶わなかった。



「何を聞きたいんだ?」



一難去ってまた一難とはこのことなのか。

声がした方を振り返ると、赤い瞳が私を見ていた。

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