第一章 04

「ほら」


学園に着き先に馬車を降りた殿下が手を差し出す。

殿下が馬車を降りただけでも注目されるが、馬車の扉に向かって手を伸ばしただけで一気に辺りが騒がしくなる。


氷の皇太子が公務以外で誰かをエスコートするなんてこと無かったものね…。

騒がれても仕方ないが、どうしよう。出たくない。


女は度胸よシエラ。

ずっと馬車にいるわけにもいかないし、避けられないならとっとと終わらせてしまいましょう!


差し出された手に軽く触れる程度に添えたはずの手はギュッと握り締められた。


馬車から降り、顔を上げれば嫌でも集まる視線。

私も一応公爵令嬢のため何もしなくても注目されることが多いが、いつもの倍以上の視線に困惑してしまう。


周りの視線が気になる私とは正反対に、全くに気にしていない様子の殿下。

ゆっくりと私の歩幅に合わせて歩いてくれる殿下と一緒にどうにか全ての学年の校舎へとつながる本館の入り口まで辿り着いた。


いつもは数分の道のりが、永遠のように感じたわ…。


歩きながら聞こえてきた私の名前と殿下の名前。

心なしか私の名前の方が多く聞こえた気がしたわ。


「2年校舎まで送っていく」

「いえ、ここで結構ですわ」


これ以上は嫌だと伝えるために分かりやすく両手で前に出しストップと示す。

私が目立つことが苦手だと知っている殿下は、かなり渋々といった様子だったが引いてくれた。


「…昼食は一緒にとれるだろうか」

「申し訳ありません。先約がありますのでまた機会があれば」

「そうか」


幸いなことに2年校舎と3年校舎は中庭を挟んで反対側のため、今いる本館で分れることになる。

殿下に一礼して2年校舎へと向かった。



「シエラ!」


後ろから私を呼ぶ声が聞こえて足を止める。

誰が私を呼んでいるかなんて顔を見なくてもわかる。

こんなにも気さくに私に話しかけてくれるのは私と同じように騎士の家系に生まれた幼馴染だけだ。


「ユティおはよう、なんだが久しぶりな感じがするわ」

「そうね。シエラが元気そうで何よりよ」


少し癖っ毛の栗色の髪を一つにまとめた彼女は伯爵令嬢のユティ・アメリアス。

私を公爵令嬢としてではなく、シエラという1人の友人として接してくれる大切な存在。

裏表がなく、はっきりと自分の意見を言える芯の強い子。


「それで、グレイ殿下とはどういう関係なの?」

「……直球すぎない?」

「そう?」


ユティのいい所ではあるけれど、もう少しくらいオブラートに聞けないのかしら。


「では、氷の皇太子が公務以外で女性をエスコートしただけでなく、一緒に登校されたことから2人の関係は恋仲なのか、いつからの関係性なのか、シエラが皇太子妃になるのかなどなど、シエラとグレイ殿下の話でもちきりのようだけれど2人はどのような関係なのかもしよろしければ拙い伯爵家の私に教えていただけないでしょうか」


「………ここでは流石に話せないから、またお昼に話すわ」

「あら!シエラの先約の相手は私だったのね。とても光栄だわ」


ニコッと笑いながらわざとらしく私に一礼する。


「もう!近くにいたなら助けてくれたらよかったのに!」

「流石に皇太子殿下との会話に割って入るなんて無理よ」

「それは、そうかもだけど…だけれどぉ…」


無理よね…。


「シエラと殿下の間で何があったのか分からないけれど、私はシエラの味方だから」

「うん…ありがと」


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