第一章 03

向かい合わせで座る馬車の中。

私は窓の外に視線を向けていた。


「…殿下、そんなに見られると恥ずかしいのですが」

「そうか」

「なので、やめていただけませんか?」

「断る」


馬車に乗ってからずっとこの調子だ。

殿下との距離が縮まったと言ってもずっと手紙でのやり取りだったため、対面してしまうと緊張してしまう

初めはたわいもない話をしていたが、その間もずっと見つめてくる殿下からの視線に耐えきれず外を眺めることにしのだが気になることには変わらなかった。


「はぁー…」

「っ!?ど、どうしました?」


静かな馬車ないに突然のため息に驚いたが、杞憂だった。


「学園が始まれば他の男どもの視界にシエラ嬢が映る時間が増えるとことを失念してた」


何事かと思えば…


「…今更ではありませんか?」

「今までは近づくことが出来なかった君と一緒に登校し、学園でも話すことができることに浮かれていたのだ…」


ついさっきまで機嫌が良さそうだったのに一転。

頭を抱えるかのように手を組み、下を向いて沈んでいる。


「そんな考え込むほどのことではないかと」

「いいや、重要事項だ。低学年、高学年はまだいい。だが、シエラ嬢と同学年の男どもをどうすべきか」


それこそ今更な気がすると言いますか、特に喜ぶ男性もいないと思うのですが。


「私よりもシエラ嬢と一緒に入れる時間が多いばかりか、私が見れない受講姿やその瞬間をヤツらは見れるのだぞ?」


“氷の皇太子“が私の同級生相手にこんなことを考えているなんて誰も想像もつかないでしょうね。


「ふふっ。確かに殿下と同学年だったらと思うとこともありますが、私は殿下が一つ上でよかったと思っていますよ」

「……君があまり目立つことが好きではないことは知っている」


「私と一緒にいると目立ってしまうからな」っと少し拗ねたように小さな声で話す殿下が、小さな子供のようで見た目と合わないギャップが可愛いと思ってしまうのだから、私も殿下に気を許してきたなと感じる。


「それもありますが、もし殿下と婚約して結婚したらずっと一緒ではありませんか。だから今は少し距離のある学園生活を楽しみませんか?私はゆっくり殿下のことを知っていきたいと思っています」


真っ直ぐ殿下を見ながら言葉を紡いだ。

気持ちを言葉にすることは得意ではないが、いつも真っ直ぐに伝えてくれる殿下に不慣れでも少しづつ伝えていきたい。


「……それは流石にズルくないか?そのように言われては何も言えないではないか…」

「とは言ってみたものの、実際私は婚約者候補にすぎませんので程々の距離感が私たちにはぴったりだと思いますわ」


知っていきたことは嘘ではないが、殿下に恋愛感情を持っているかと言われれば「いいえ」が正直なところ。


私はまだ恋というものをしたことがない。

夢見がちと言われるかもしれないが、相手を思い、胸を締め付けられるような甘酸っぱい感情に気がつける日がどこか楽しみでもあった。


「私をこんなに簡単に一喜一憂させれるのは帝国中を探しても君だけだ…」

「そんな、恐れ多いですわ」


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