side丸山――保護した少年は人間を辞めた。―――

 樹海から帰ったらドッと疲れたので、シダ君と一緒に布団の中に入った。朝起きたら案の定泥まみれになっていたし、シダ君は土の中に戻っていた。そりゃそうか。

 ふと、足元に泥まみれのキャンバスが落ちていることに気付く。爪先で蹴ってしまった。拾い上げるとキャンバス一杯に大きな字で雑に何か書かれていた。


『僕はきっと、人のことは何も分からなくなります』


 そう書いてあるキャンバスに「だから何だ」と毒づく。


「シダ君、おはよう」


 だからなんだと言うんだ。

 俺はちゃんとシダ君のことが分かる。シダ君はシダ君だから。


「君のことを星野君と呼べなかったように、君を意志のない物体としては扱えないんだよ、もう」


 もぞもぞと動くシダ君を撫でる。彼はそれに応えるように俺の背中を叩いてくれた。


「もう君は誰にも煩わされなくていいんだ」


 肉親にも友人にも知り合いにも、俺にも。



 数日後、さほど鳴らない携帯にメールが着た。角田からだ。

「ニュース見た。やるじゃん」と書かれていた。つられて普段見ないテレビの電源を点ける。どうやら、星野樹君が樹海で発見されたようだ。


「発見。って、本当にそう言うんだ」


 シダ君は俺が無事に保護している。

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凝縮型ユートピア――樹海に行ったら人間辞める羽目になった―― 笹本 @kishikanai

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