第4話 英魔激突

 碑宝オルコス──

 それは神話の時代、未だ人と神と魔が共存していた世界に於いて存在した奇跡の結晶体の総称。

 英雄が、神が、魔が手にしていた、自らの存在を構成する概念とも呼べると言えるだろう。

 簡単に言ってしまえば、ヒーローが持つ特殊な武器である。そして、そんな武器ならば必殺技と呼べるものもまた存在している。

 それこそが、碑異顕象テラスアギオ

 伝説、神威、恐怖の具現が碑宝オルコスならば碑異顕象テラスアギオはかつて世界にて行われた神話譚ミソロジー、その再演とも呼ぶべきものである。



 人の世に産まれ、英雄と讃えられた者が振るう伝説、功績が具現化を果たした承器。

 そしてその成し得た伝説、功績の再演こそが伝承回帰。

 神々が自らに齎される信仰を依代に獲得した、絶大なる神威の結晶体そのものである神器。

 そしてその依代を糧とし手に入れた神威の発露こそが神威顕現。

 人と神に仇なす怪物達が天地に刻んだ脅威、暴威を鎧と化した魔装。

 そしてその脅威、暴威を再び地表に落とす怪物の災禍こそが禍津解放。


 かつては天地の狭間において無数に振るわれた神秘の結晶。多くの英雄譚とそれに仇なす暴威の激突は既に無く、それを生み出す土壌は既に地上から失われ、それを覚えている者は誰も居ない。

 だが、今ここにその神秘が復活する───



「承器呼号─『挑みしは十二の試練ドキマシア・ミソロギア』」

 その呼びかけに答えるように天から一条の雷光がヘラクレスに向け落ちていき、轟音と共に土煙が彼を包み込む。そして相対する男はヘラクレスの呼びかけを聞いて、浮かべていた笑みを消していた。

「その承器……テメェ、まさか……」

 訝しむ男が腕を振るう、ただそれだけでどういうわけか突風が吹き荒れてヘラクレスを包み込んでいた土煙がかき消されて行く。

 そこに居たのは、黄金のような輝きを放つ獅子の毛皮を纏い、樹齢数万年もの大木を削って作られた巨大な棍棒を片手にするヘラクレスであった。

 正に神話の世界から現れたかのような風貌、それを目の当たりにして目の前にいる男がヘラクレスであると漸く気付く。

「ギリシャ神界の、ヘラクレス……! ……っ、くく……ハハハハハハッ!!!」

 だがそこに恐怖という感情は無かった、ただただ愉快であるというのみであった。

 次瞬、風が徐々に男の方に集っていく。物理法則を無視したそれは男の腕に、脚に、胴へまるで鎧を形成するかのように。

「んじゃ、さっさと始め─」

 ようぜ、と続く言葉は男の口から出ることは無かった。何故なら─

「ハァァァッ!!!」

 ──ヘラクレスの持つ棍棒が、男の顔面を正確に捉え彼方へ吹き飛ばしたからだ。メキャ、という肉と骨がひしゃげる音を撒き散らしながら男は後方のビルの中腹に激突する。

「悪いな、まさかペラペラとお喋りし続けるとは思わなかった。今ならまだ間に合うぞ? さっさとこの事態を収めてこの街から消え失せるが良い」

 吹き飛んだ男に向け、今のは慈悲だ、言わんばかりに最後通告を放つヘラクレス。

 金剛石すら容易く砕く剛腕により放たれた棍棒の一撃を耐え切れる生物など、この現世には存在しないだろう……

「ああ、悪い悪い。そんな甘ちゃんじゃねえもんな怪物殺しのヘラクレスさんよぉ……! 俺もテメェのこと舐めてたわ、うん」

 そう、現世には存在しない。だが神、魔であるならば? 当たり前のように立ち上がる、崩れかけているビルの壁面からヘラクレスを見下ろし、笑いながら謝罪する。そして、先と変わらず風は彼の全身を覆っていき、そして告げる。それは──

「じゃあヤるか、久しぶりの本気の闘争って奴をよぉ!! 魔装展開─『死と熱よ、風と共に終を齎せパズズ・アル=ダバラン』ッ!!」

 ──それは死である、それは暴風の化身である、そして文明すら滅ぼす悪魔の王の名であった。


「我はパズズ、ハンビの息子。山より猛々しく荒ぶり出づる、大気の悪霊の王者。それこそが我である」


 パズズ。古代メソポタミア神話において、風と疫病を司る悪霊、魔神であるとされている。

 獅子の頭部には鋭く獰猛な牙を恐怖を煽るかのように剥き出しにしており、腕には鋼すら容易く両断出来そうな恐ろしい程の巨大な爪を立てて、四枚の羽を羽ばたかせながら天を駆けるとされている。その強大な力は生半可な魔性を駆逐し、人々を守るとも言われているが……やはりそこはどこまで行っても魔神。天と地の狭間に厄災を巻き起こす怪物に他ならない。


 自らの魔装を展開した男─パズズもまた、文献に記されているような形状をした鎧をその身に纏っていた。

 獅子の頭部を模した兜、巨大な三本の鉤爪を兼ね備えた手甲、そして背中には複数の金属板を重ねて形成された四枚の翼。

 見る者の正気を奪いかねないほどの悪意と暴威を束ねたその姿は、正に魔王と呼ぶに相応しいものだった。


 互いに碑宝オルコスを展開し終えた両者は溢れ出る戦意を叩きつけ合い、そして

「パズズ……何故メソポタミア神界の魔神が、こんな極東の地にいるのだ……と問い掛けたいが、今は止そう。貴様はここで始末する」

「そりゃこっちのセリフだぜヘラクレス、テメェがこんなとこにいちゃオチオチ文明も滅ぼせねぇ、だからお前はここで殺す」


 互いに地を、ビルを蹴り一気に近づきそして─

「消え失せろ魔神、人々の安寧の為にッ」

「しゃらくせえ!! 英雄はお呼びじゃねえ!!」

 轟音を撒き散らしながら棍棒と鉤爪が中空で激突を果たし、英雄と魔神の戦端が遂に開かれた。



 一方、その頃。

「だーもー!! 誰じゃ暴れ回ってるのはー!! ここを日本神界だと知らない不届者めー!!」

「うーん、とはいえ何処の神界の連中なのかねー?」

 街の道路……では無く、ビルの屋上をまるで忍者かのように走る二人の姿─天照とロキの姿がそこにあった。

 ギャーギャーと騒ぎながら急いで走るその姿は文字通りふざけていると言っても過言では無いのだが、その表情は真剣そのもの。

「取り敢えず、暴れてるのがどこのどいつか分かんないけど取っちめてやるぅ……! んで訴えてやるー!!」

 ムキー! と歯軋りしながら叫ぶ天照に対して

「とはいえ僕たち戦闘とか出来るような神じゃないからねー、ヘラクレス君が居れば良いんだけど……彼今出かけちゃってるし、何より電話出ないし……何かあったのかなぁ」

 と、冷静に状況を判断するロキ。

 少なくとも、人ならざる存在による干渉があったのは間違いない。二人は言葉を交わさずに確信した瞬間、大気を揺るがす程の轟音とそれに続く衝撃が二人を襲った。

「……今のって」

「うん、多分その通りだと思う。電話が繋がらなかった理由はそれかぁ……」

 そして状況は更に悪化する一方であったこともまた、二人は理解していた。

 この都市に住まう者で、あれ程の暴威に立ち向かえる者なぞ天照とロキは一人しか思いつかなかった。

 ヘラクレス──彼は既に英雄として元凶と戦っている、ならばこそ神たる我等も責務を果たすべきと、その場に立ち止まり……己が神威を発動する。

「神器降臨─『三種神器・天照八咫鏡みくさのかんだから・あまてらせよやたのかがみ』」

「神器降臨─『夢幻の霧は我が燈の見る夢レーギャルン・フヴェズルング』」

 それは巨大な鏡であった、しかしそれは何かを映す為のものではなかった。それは通常の鏡とは逆、光を反射するのではなく光を放つもの。淡い陽光を天地に照す生命を育む神鏡に他ならない。


 それは淡い橙色をした炎であった、しかしそれは万物を燃やし尽くす炎ではなかった。それは通常の炎とは異なる、焼失ではなく夢幻を魅せるもの。遍く現実を偽り欺く悪戯織りなす神炎に他ならない。


「さあ、やっちまいなヘラクレス君」

「ここは私ら神に任せな!」


 そして、二人─否、二柱の神々の神威が都市を包み込む。汝、民草の安寧を守護せし英雄よ。我らが神威を以て、新たな英雄譚を成し遂げよ──






 そして、再び場面は移り変わり。

 激しい轟音と衝撃を撒き散らしながら、高速で移動し続ける英雄と魔の姿がそこにはあった。

「ハァァァァアアアアアアッ!!!」

「オォォォォォォォォォォッ!!!」

 ただ疾駆する、ただ己が武装を振るう。それだけで周囲のものが破壊されていく。

 ヘラクレスは自らの棍棒に加え、砕かれ地に転がるコンクリート片を、乗り捨てられた車を、街を彩る街路樹をまるで野球ボールかのように棍棒で撃ち出していく。直撃しようものなら頑強な装甲を誇る戦車であろうと容易く粉砕する程の破壊力を秘めたそれは、パズズの爪と翼により粉砕され掻き消され消し飛んでいく。

 対するパズズもまた自らの鉤爪を振るい、空中に飛び上がり背中の二対の翼から不可視の風の刃と風の弾丸を巻き起こし、全てを両断し打ち砕かんと迸らせていく。

 これもまた戦車どころか戦艦すら貫通し切断し得る程の威力を有している。そして何よりも恐ろしいのが、のだ。如何なる手法か、もしくは人智を容易く超越した魔神の力故か、大気の歪みすら無い不可視の攻撃はヘラクレスの肉体を斬り刻み、その命の灯火を消す筈だった。だがしかし、もしくはやはりと言うべきか、不可視の攻撃程度対応出来ねば大英雄と名乗ることは出来ない。

 パズズの放つ殺意と、振るわれる翼の動き方から当たり前のように着弾位置と攻撃内容を予測し、その決断に命を託し逡巡することなく行動に移す。結果──無傷とまではいかないものの、致死の嵐を突破する。


 互いの一撃、仮に直撃しようものなら確実に命を落とす、もしくは致命傷になり得る程の威力。だが、二人がそれに臆することはなく更により苛烈に攻め立てていく。

 その理由は、単純明快だった。

「クソが、この霧…忌々しい気配を感じるなァ……!」

「これは、ロキ神の……! なら、もっと全力を出して良いということかッ」

「ロキだと?北欧神界の悪戯神トリックスターか、ああならもっとやって良いよなぁ!!」

 二人がロキの神威を知っているからである。

 ロキの『夢幻の霧は我が燈の見る夢レーギャルン・フヴェズルング』は現実を夢に変化させる─謂わば、あったことを無かったことにしてしまうという神威である。複数の条件はあるものの、今二人が巻き起こしている被害を無かったことに出来てしまうという破格の力は他神界でもかなり知られているものであった。

 少なくとも、この神威が周囲に満ちているということはこの場にいる人間は存在しない──ロキの魅せる幻に従って移動し終えたのだ。此処に守るべき人々は居ない。よって、最早─

「力を抑える必要は無いということだ、行くぞパズズ。我が試練、乗り越えてみせろ!! 伝承限定回帰─『怪鳥よ大群と成れステュムパリデスッ!!』」


 伝承回帰。それは承器に秘められた力の解放、かつて成し得た功績の再演。神話を現代に蘇らせる奇跡の発露である。



 ヘラクレスが棍棒を用いて地面を砕く、するとひび割れた地下から数十を超す青銅の嘴を持つ怪鳥が己が征服者あるじの命に従い熱砂の魔王に襲い掛かる。

「ステュムパリデス、軍神アレスの生物兵器オモチャか……ッ!! テメェそんなの承器にしてたのかよッ」

 ステュムパリデス、またはステュムパーリデスの鳥。神話の時代において軍神アレスが創造したとされる、青銅の嘴と翼を持つ怪鳥である。かつてヘラクレスによる十二の試練、その六番目において討伐したという。

「ゲッゲグゲゲグギャアオオオオオアアァァァァ!!!」

 天に昇ると共に身の毛がよだつような恐ろしい鳴き声を次々とあげるていく様は、まさに地獄そのものと言っても過言では無いだろう。

 そして凡ゆる生命を貪り喰らう怪鳥は、次なる獲物をパズズに定め、突貫を開始する。

 その様は正に矢、もしくは投槍と表現するのが正しいだろう。如何にパズズの肉体が頑強な鎧で纏われていようと、軍神の加護を受けて生誕したこの怪鳥の嘴を受け止めることは不可能であった……そう、このパズズ以外では。

「『死颶礼賛シャマル・ハドルフム』、軍神の兵器如きが俺を殺せる訳ねぇだろうがよォッ!!!」

 次瞬、背から生えていた翼を構成する総数百二十を超す金属片が次々と分離を果たし、飢えた狼の如くステュムパリデス達目掛け飛翔していき、斬り刻み穿ち貫いて蹂躙していく。金属片自体が鋭い武装そのものだが、風の魔神たるパズズの力を宿している為だろう、風の刃や盾、槍を続々と生み出して怪鳥の足止めと殲滅を繰り返していく。

 ステュムパリデス達も負けじと応戦するが、やはり数の暴力によってその数を減らしていく。

 凡ゆる鎧を貫通する青銅の嘴はしかし、姿形無き風を破壊することは叶わなかったのだ。

 最後の一匹が肉片すら残さず四散していく様をヘラクレスは視界の端で捉えつつ、空中で浮かんでいるパズズを仕留める為に自らも空へ跳躍し、次なる承器を呼び出していく。

「伝承限定回帰─『戦車よ疾風と成れディオメデス・ポダルラムクサントノス』ッ!!!」

 その呼び掛けに応じ、鮮血を滴らせながら空を駆ける四頭の巨大な牝馬と、彼女達に繋がれた荘厳な威光を放つ戦車が空間を爆砕しながらパズズ目掛け突撃していく。

「テメ、その戦車はッ、ガァァァァァァァッッッ!!?」

 ヘラクレスが駆る戦車を牽く四頭の牝馬、その正体は第八の試練の果てに手に入れた、これまた軍神アレスの息子であるトラキア王ディオメデス王が持つ人喰い馬である。ポダルゴス、ラムポーン、クサントス、ディーノスと名付けられていたそれは、非常に獰猛な性格をしており、更には肉食であったとされている。ディオメデスはその巨体を維持する為に見ず知らずの旅人達を彼女達の餌とする為に誘拐を繰り返し、人肉を貪り喰らわせていたという。


 怪馬達の全力疾走。それは百の城を、千の要塞を、万の兵を容易く鏖殺する破壊力を秘めている。そんなものが先までステュムパリデスの殲滅に意識を割いていたパズズに向けて─彼からすれば、ふざけるなと言いたくなる程の脅威が音速を超えて飛来し、そしてパズズの巨体を十六の蹄を用いて踏み砕きながら空中に浮かんでいたパズズを地面に激突させていく。

 その様はまるで隕石の落下にも等しい。何よりも先の衝撃が周囲に甚大な被害を齎しているのがその証拠である。周囲のビルでヒビの入っていないものは皆無であり、着弾位置にはクレーターまでもが生じていた。

 ロキの神威が無ければ、甚大な被害を巻き起こしていたのは事実だ。だが、それと同時にここまでのダメージを与えることはヘラクレスには難しかっただろう。棍棒と周囲にある品を用いて、経験則に裏打ちされた勘と数千年に渡り積んだ鍛錬の成果。それらを用いれば時間はかなりかかるものの、今パズズが受けているダメージと同等の攻撃は与えられたことだろう。その代価に、確実にヘラクレスの手足の一本はもぎ取られていただろうが。

 その事を戦いの中確信していたヘラクレスは心の中で、あの胡散臭い神に感謝していた。

 だからこそ─

「やはり、神というのはどこの神でも頑丈なのだな」

「それ、は……ハァ……こっちのセリフだ……、クソボケがよ……!!」

 先の猛攻を受けて尚を見て、内心舌打ちをする。

 ダメージは与えている、だが致命には至っていない。その様が、英雄と神の間にある絶対的な格差をまざまざと感じさせてくる。

 だが同時に、ヘラクレスは一つの考えがあった。パズズの魔装が持つ特殊能力の影響により、と。

 だが、それはパズズもまた同じ考えであった。互いの碑宝オルコスを展開して十数分の間の攻防、パズズは三千二百五十七の致命傷たら得る攻撃をヘラクレスにぶつけていた。頭、心臓、腹に首。どれもパズズの鉤爪が直撃すれば、如何なる英雄であろうと即死する筈であった。にも関わらず、

 互いが持つ、もう一つの碑宝オルコス。その正体が明らかにならない限り、凄絶なる消耗戦が繰り広げられることになるであろう。


 互いが互いを見据える。ヘラクレスは戦車の上からパズズを睨み付け、パズズはよろよろと立ち上がりながらヘラクレスを睨み付ける。


「あー、痛え。死ぬかと思ったぞ」

 首をゴギ、と音を鳴らし鼻に詰まっていたのであろう血を勢いよく吹き出させながら軽口を叩くパズズに対し。

「ならさっさとメソポタミア神界に帰ったらどうだ? 尤も、逃がすつもりは毛頭ないがな」

 そう告げながら、ヘラクレスは騎乗していた戦車を消滅させ、パズズと同じように地に立つ。あの戦車は機動力と火力こそヘラクレスの持つ承器の中でもトップクラスの代物だが、その反面直線的な動きになりやすいという欠点が存在する。一度使ってしまった以上、パズズは次の攻撃では軽く対応してくるとの判断だ。


「テメェ、本当にイラつかせてくれるぜ……どっちが上かってのを理解してねえもんなぁ!」

 ヘラクレスの言動、それはパズズにとって自分が格下であると思われている事が許せないのだろう、怒りにその身を震わせていく。だが、今のパズズにヘラクレスは殺し切れない。

 故に、決断する。

「だが、そんなテメェでも抗えねえ現実ってのを教えてやるよ。テメェは死なねえ、それは理解した。ならそれ以外をみなごろしにしてやる」

 その言葉と同時に、異様な気配が頭上に顕現する。それに気付いたヘラクレスは弾かれたように上を見上げ、絶句した。

 それは死であった、

 それは滅びであった、

 文明すら捕食する貪欲なる砂の顎が、はるか天から落ちてくる。

 パズズはまるでそれを愛する者を迎え入れるように手を掲げ、謳い上げる。

「砂よ、死よ、熱よ、終よ。遥かなる天より来たりし絶望の厄災を、己が命を以て迎え入れろ。真の滅びが汝らを貪り終えるその瞬間まで」

 それは祝詞であった。魔神、魔の王として存在したパズズの滅びの宣告。

 かつて自らが成し得た文明の崩壊、その具現が此処に果たされる。

「禍津解放──『文明貪り喰らえ砂の熱、静寂なる死を讃えろパズズ・ラマシュトゥラ』」


 文明すら貪り喰らう死の嵐が、魔王の呼び掛けに応じて象を果たす。そしてそれは、英雄ヘラクレスにとっては最早抗うことすら許されない魔神による滅びそのものであった。


「さあ、英雄よ。魔王オレが許す。絶望を歌い上げろ、慟哭せよ。自分以外が滅ぶ瞬間を、共に楽しもうぜ」

 ゲタゲタと笑う魔王に対し、ヘラクレスは睨みつける事しかできなかった。

 局面は、最終決戦へと移行していく。

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