七首【虐められ 逃れついたは 終の場所  時代が違えど 君も同じか】

息を切らして走り続け、僕は酷く汚れたトイレに逃げ込んだ。


僕を虐める不良達も、こんな汚い場所には入りたくないかもしれない。


どのみちこれ以上逃げ回る体力は残っていなかった。


荒れた呼吸を無理矢理抑えて、糞尿の臭いが充満するトイレで、僕は息を殺して祈る。



どうか見つかりませんように…



不良達の騒ぐ声が聞こえた。


「ここに隠れてんじゃね?」


「マジか!?ここって自殺した幽霊が出る便所だろ?」


「アイツも幽霊になってたりしてな」


足音がトイレに侵入したのを感じる。



来るな来るな来るな来るな来るな来るな



僕は必死に祈った。



ドシン…


奇妙な振動を感じて僕は薄目を開ける。



「ひっ…」


「きゅ…救急車!!」


「馬鹿!!逃げんだよ!!」


不良達が慌てた様子で遠ざかっていく音が聞こえた。


ふと壁の向こうの個室に目をやると梁から地面に向かってピンと伸びたロープの先でクルクルと回る少年が見えた。


彼は鬱血した紫の顔をこちら向けて、充血した目を細めると、僕にニッと笑ってみせた。


どこらともなく僕の個室にも先に輪のついた一本のロープが降りてくる。


ああ…

誘われてるんだな…


そう思った。




 虐められ 逃れついたは 終の場所


   時代が違えど 君も同じか

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る