五首【帰り道 振り振り帰る 水銀燈 家の間近で 重なる視線】

朝が遠い。


どれ程歩いただろう。


終電の時刻はとっくに過ぎている。


田舎の山間に二十四時間営業の気の利いた店などはない。


私は何処にも逃れる事が出来ず、ひたすら暗闇の中を電灯から電灯へと逃げ回っている。


気配を感じたのは駅からしばらく歩いたころのこと。


振り返れど何かいるはずもなく、恐怖に憑かれた私は家路を急いだ。


家の前でもう一度振り返った時だった。


電灯の影からこちらを覗く、白い人影と目があった。


歯をむき出しにして嗤うその表情に、私の本能が警鐘を鳴らす。


『あれに家を知られてはイケナイ』


それから私は当て所無く、暗闇を彷徨っている。


朝が遠い。


私は逃げ切れるだろうか…?



 帰り道 振り振り帰る 水銀燈 


 家の間近で 重なる視線


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