ノイルを早く出してあげてください

 街の景色一体が見渡せる塔の頂上は、風通しがよくてすごく気持ちがいいですね。手入れされていないのか、かび臭いのが欠点です。まあ、牢獄なんてそんなものでしょうけど。


 いやあ、さすがにライオン野放ししてたら捕まりましたね、ノイルが。いくらなんでも可哀想なので、私は今ノイルの入れられている牢の前に座って、記事を書いている次第です。ここ、カビ臭く無ければ本当にいい場所ですね。姫さんに頼んでここを住処にしようかどうか本気で悩んでいます。ふかふかの布団だけ置かせてもらって、あとは寝て食って寝る、みたいな。我ながら完璧ですね。


 で、肝心なダンジョン攻略の話ですね。私たちが一番最初に行ったのは、街から近い、森の中にあるダンジョンです。手頃な割に鉱石も高いものが手に入るし、全員熱が入っていた気がします。姫さんに関しては十分お金を持っていると思うのですけれど、なんでしたっけね、ミツギモ、あ、いえ、街の住民にプレゼントするのだそうです。おやさしいですね。まあ、郵便ポストに差出人の名前も書かずに突っ込んでいたので認知されているかどうかは怪しいところですけれども。


 ダンジョンにはうようよと魔物がいましてね、まあ当たり前なんですけど。魔物が居ないダンジョンとかダンジョンの意味ないですよね。とりあえず私は友達百人を目標に先陣切って行ったんですよ。勇気あるでしょ?まあそうしないとノイルが嬢ちゃんとかブリジット様を食べてしまいますのでね、仕方の無いことです。


 入ってそうそうに囲まれながら、私は呑気に魔物たちと肩組みあってランラランラと歌っていたわけですけれども、パーティの人たちって容赦ないんですよね。作った友達が死んでいく死んでいく。悲しかったですね。彼らが何をしたと言うんですか!ただ人を襲っただけなのに!


 熱くなりましたね、失礼。


「旅人ちゃんが洗脳してくれるから討伐が楽になって助かる」と聖騎士様に言われたんですけれども、いや、私別に洗脳したつもりはないんですよね。仲良くなっているだけで。


 あ、そういえば私、名前ないんですよ。ほら、例の夏目漱石の猫みたいに。吾輩は旅人である。名前はまだない。的な感じです。周りからは旅人ちゃんだの吟遊詩人だのサボり魔だの役立たずだの色々な呼ばれ方をしております。前半二つはともかく後半二つは本当にただの悪口ですよね。傷ついた私に桜餅をどなたか姫さん宛に送ってください。ノイルをしかけてぶんどります。

 佐和の国に行きましたときにどハマりしたんですよ。生み出した人は天才ですね。褒美を与えましょう。姫さんが。


 姫さんといえばダンジョンにはいる時に何も持っていないものだからどうするのかと思えば、ダンジョンの中にあった適当なツルハシを武器にしていて驚きましたね。ツルハシで魔物の頭が真っ二つですよ。あれはトラウマものですよね。ノイルも脅えて私の腕を噛みちぎってしまいましたよ。可哀想に。


 嬢ちゃんは回復魔法が要らないうちはどうするのかと思えば、杖でボコ殴りです。狂気ってこういうことを言うのだなと思いましたね。まあでも、一発ぶん殴っただけで魔物が倒れるほどの力はなかったことに安心しましたね。グループ内にゴリラは一人だけでいいですよ。その一人はもちろん姫さんなんですけど。あ、何だか寒気がしました。いいですね、この毎秒舌打ちしたくなるような暑さの中ではこのくらいの寒さがちょうどいいです。


 ブリジット様は相変わらずでしたね。無詠唱で魔法を使うなと何度も師だか上司だかに言われているはずですが、物の見事に洞窟の中で広範囲の炎魔法を無詠唱でぶっ放しやがったせいで被害にあいました。回復魔法をかけて貰っても一酸化炭素が留まり続けるので、本当に地獄でしたね。それに、ノイルのたてがみが焦げてしまって可哀想でした。


 ダンジョンの奥に進むにつれて、どんどん凶暴になっていくんですよね。魔物がではなく味方が。もはやどっちが悪者か分かりませんよね。魔物素材の乱獲にも程があるといいますか。というかキースの目玉って何に使うのですか?額に埋め込んで三目小僧の仮装に使うとか?わかる方、教えてください。


 ところで今更なのですけれど、民を守るためにダンジョンに行く意味ってありますかね?ダンジョンから魔物って基本出てきませんし……。

 まあでも、友達百人は達成したのでどうでもいいですね。うち百人は殺されましたけど。というか出来た魔物の友人は全員殺されたんですけどね。ううん、なんとも世知辛い。魔物が人間を襲う以外に何をしたと言うんでしょう。


 次回は、そうですね。何の話をしましょうか。誰かについて掘り下げましょうか。それとも、冒険の一部分をお話致しましょうか。それはまたゆっくりと考えておくことに致しましょう。


 アデュー、顔も知らない親友たち。また記事で会いましょう。

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