第四話

 来ると思っていた痛みはソフィアには来ず、不思議に思いながら目を開ける。


「え……?」


 目を開けた先には光の粒子のようなものが飛び交っていて、ドラゴンの動きが止まっていた。


 レオルはどうしたのかと振り返ると、レオルも動きがとまっていて反応がなかった。


 一体何事かと首を傾げると、目の前に赤い炎が閉じ込められたステッキのようなものが浮かんでいる。


「これって……」


 前にメイド長から選ばれたものには赤いステッキが現れて、それを使って火の国を守ることが出来ると言われたことを思い出した。


 このステッキがそうなのだろうかと、まじまじ観察する。


 ハート型のガラスに赤い炎が閉じ込められていて、下の方はリボンの装飾が施されていた。


「かっわいいー!」


 思わず声に出してそう褒めると、ステッキは光を放ちながらソフィアの前で留まった。


「このステッキが、火の国を守るためのものと言うならお願い力を貸して! レオルのために!」


 火の国は別にあとでもいいかと考えていたことは秘密である。


 ステッキの持ち手に触れて、力強く握りしめると暖かい何かが流れてくるように感じた。


 これは、レオルのことを好きと思っている時と同じぐらいに心地よくて、気持ちのいいものだった。


「私、レオルのことが大好き!」


 口が勝手に言葉をつむぎ出して、思わずステッキを落としてしまいそうになるが、何とか持ち直して前を向く。


「火の国も大切だけど、私は目の前のものを守りたい!」


 願いを込めて強く叫ぶ。


「レオルのことは私が守る!」


 ステッキから溢れるほどの光が満ちて、ソフィアの来ているドレスを赤色へと変化させる。


 胸のところには赤いリボンがついて、胴回りを一周するようにピンクのリボンが現れる。


 袖は白く染って、ステッキを持つ手が勝手に白い手袋をはめる。


 髪の毛は動き安いようにひとつに結ばれて、青いリボンで包まれる。


 青はレオルの象徴だと思い、心が踊った。


 遊ぶために履いていた短靴は白いブーツに変わり、小さな赤いリボンがついた。


 自分の姿を見たソフィアは、昔見た魔法少女を思い出して、適当に口上を叫ぶ。


「魔法少女、ファイアソフィア! レオルを守るために頑張ります!」


 きっとこの力は魔法少女ではないが、魔法少女になったと思った方が、気持ちが向上する。


 ソフィアは止まったままのドラゴンに向き直ると、ごめんねと小さな声で謝った。


 私の勝手な都合で、レオルを守るためにドラゴンを倒すこと、どうか許して欲しい。


 ソフィアはそう思うと、指を高く上げてパチンと鳴らした。


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