第二話

 日も暮れる頃、やっと勉強から解放された私はレオルと花畑で遊んでいた。


「今日は遅かったね」


 周りの人がみんな大好きになるような優しい笑顔を浮かべながら、レオルはそう言った。


 ドキリと胸が高鳴るのを感じながら、自分の心に落ち着けと念じる。


 レオルの前ではもっと清廉潔白な少女を演じていたいのだ。


 けれどもそれが叶っていないことは、実はソフィアだけが知らない。


「しっかり勉強したんだよ! レオルは何をしていたの?」


「ぼくは、ソフィアのお父様にご挨拶をしたり、礼儀作法の勉強をしていたよ」


「レオルが? 礼儀作法の?」


 私よりもずっと賢くて、礼儀正しくて、真面目で、優しくて、完璧な人間であるレオルが、今更礼儀作法を学んだ所で何になるというのだか。


 しかもお父様にご挨拶って、まさかもう結婚のお話が進んでいたり……?


「ぼくもソフィアのようにならないとね」


「私のように!? やめて! レオルはレオルのままでいいんだよ!」


 私のようにめちゃくちゃ暴れるレオルはみたくないと首を振る。


 レオルはそんなソフィアに笑いかけるように微笑んだ。


 夕暮れに照らされて綺麗に輝くレオルの笑顔。


 眩しい、眩しすぎる。


 手で顔を覆ってその眩しさから逃れていると、急にレオルは不安そうな顔をした。


「ぼく、ちゃんとソフィアの役に立ててる?」


 不安そうにしているレオルにソフィアはどんと胸を張って答える。


「そんなの当たり前じゃない!」


 レオルはソフィアのその言葉を聞いて嬉しそうに笑って見せた。


「ぼくもっと頑張るからね」


 うっ、眩しい。


 これ以上の眩しさには耐えられそうにない。


「そうだ、ソフィア。これ花かんむりだよ」


 ソフィアの頭に乗せられた花かんむりは、シロツメクサで作られた小ぶりのものだった。


 レオルはいつもこうして花かんむりを作ってはソフィアにプレゼントしてくれる。


 それが何だか特別に感じて、ソフィアはもらった花かんむりを大切にとっておいていた。


「もうすぐお部屋に帰る時間だね」


「え! もうそんな時間?」


 まだレオルと会ってから何時間も経っていないのに。


 やっぱり勉強なんてするもんじゃなかったと、数時間前の自分に悪態をつく。


「ぼく、ソフィアが頑張っているのを見るのが好きなんだ」


「もっと頑張るね!」


「程々でいいからね?」


 レオルにそんなことを言われたらもう頑張るしかないじゃないか。


「またあしたね、ソフィア」


「うん、また明日」


 指切りげんまんを交わして、レオルに手を振りながら解散する。


 早く明日が来ないかと祈りながら部屋へと戻った。


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