68.伝えること
「いやーははは、無事に捕縛されてよかったな。ロードリックとやら」
捕らえられた元兄上及びその一団に向けて、義父上は開口一番馬鹿笑いをしてやった。まあ、気持ちは分かる。
「な、なに」
「アルタートンの先代当主、まあ今当主代理をやってるんだが。その方から、お前さんを生け捕りにしたらぜひ持ってきてくれって言われててなあ」
お祖父様、そんな依頼してたんだ。多分、自分でお仕置きをしたいんだろうな。
何しろ、後継者の地位を外したのに家には置いていた元兄上が、そこを抜け出したんだから。お祖父様の温情を無駄にした、とお怒りだろうってのは理解できる。
ただ、義父上がぶちかましたお祖父様の本音はその上を行っていた。曰く。
「家名を悪用した平民が逃げ出したんだ、そりゃ怒りもするだろ」
「へいみん? お、俺はアルタートン家だぞ!」
「現当主ジョナスの長男は、アルタートンの後継者にふさわしくない。そう分かった時点で先代当主は、お前さんの籍を抜く準備はしていたそうだ。それでも、家で大人しくしてりゃよかったんだがな」
……うわあ。
お祖父様は、至極普通に王都守護騎士団と伯爵家当主を務められ、そうして元父上に穏便にその座を譲った。
お祖父様としては後継者として育てた元父上と、さらにその後継者として生まれた元兄上が普通に貴族当主、そして騎士として働いてくれればよかったんだ。
それが、いろいろな情報を伝えられて調べてみれば……なあ。一応、俺も当事者なんだけどさ、
「ロードリック。アルタートンの屋敷を抜け出したことで、あんたは『アルタートンの血を引くだけの平民』になった。家も継げないし、多分子供も作れなくなる」
そうして、俺に復讐するために家を逃げ出した元兄上にお怒りになり、彼の籍をアルタートン家から抜いた。血を抜くことはできないから、外で子供を作ってややこしいことにならないために元兄上は、お祖父様のもとで去勢される……ってことだな。
でも、そうするとベルベッタ夫人はどうなるんだろう。初夜はともかく、婚前交渉していた可能性もあるんだよね、元兄上だし。
「ああ、ベルベッタ嬢には子はいない。ややこしいことにならなくてよかった、とガーリングの当主も胸をなでおろしていたぞ」
「そうなんですか、義父上」
あ、それは良かった。この際、やることやってたかどうかは考えないことにする。いくらなんでも、そこまで俺には関係ないし。
と、ヴィーがこきっと首を傾げた。
「お父様。ベルベッタ嬢、ですの?」
「ん? ああ、そこな」
あ、呼び方が未婚のものに戻ってるってところか。俺はすっかり聞き流していたな。元兄上もあれ、と言うふうに目を見開いている。
けれどまあ、つまり。
「あんたの婚姻は無効……にはならなかったが、離縁は認定された。アルタートン側の素行不良が主な原因でな」
「そ、素行不良だってえ!?」
独身に戻れたのは不幸中の幸いだったな。主に、ベルベッタ嬢とガーリング家にとって。あと、元兄上側が原因なら、それなりに慰謝料も取れるはずだし。
……どこから払うんだろうな? その辺も、お祖父様は考えておられるか。
「逆恨みで、うちの娘婿襲撃しに来るようなやつだもんなあ。そもそも、書類とか自分でやればよかっただろうが。俺だって苦労してるけどやってるぞ?」
「お父様は、きちんとなさらないとお母様がお怒りになるからですが」
「こいつは小賢しく隠蔽していたこともあるし、気づいたところで怒るやつもいなかったからな。いっそ哀れだぞ」
義父上とヴィーとの会話で、はっと気がついた。
元父上も元母上も、元兄上の不正に気づくことはなかった。それは元兄上が……まあ俺も加担していたわけだけれどうまく隠していたからで。
それから、元兄上の周囲の人々は不正に気づいても怒らなかった。それどころか、一緒になって俺に書類を押し付けて。これも、俺が抵抗しなかったからだけれど……実際に抵抗したり、元父上に訴えたりしたらどうなっていたんだろう。
当時は元父上、元兄上に権力や腕力で敵わなかったから、抵抗する気力すらなかったけれど。
「そういう愚か者集団は、先代当主がまとめて引き取って重労働にこき使うそうだぞ。良かったな、首が物理的に飛ばなくて」
「な、何だと!」
「俺だって、実家が!」
「ああ、全員実家から籍抜かせるとさ。辺境伯次期当主とその婚約者を襲撃なんてするような犯罪者、家には置いておけんだろ」
元兄上はともかく、その取り巻きたちまでが慌てて叫びだした。いや、義父上じゃないけど本当に、首そのものが飛ばなくてよかったじゃないか。生きていられるんだから。
……お祖父様が重労働にこき使うとおっしゃってるようだけど、一体どこでどんなふうに働かせるんだろう?
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