64.それから

 シャナン・ファクトリーを襲撃した元騎士の人たちは、王都にて裁きを受けることとなった。元々の身分が王都守護騎士団員だったからだけど、こちらの気持ちもそれなりに汲んでくれたと言うかそもそも連中がやらかしたと言うか。

 あ、ちなみに全員、騎士の地位は剥奪された。さっくりと。


「実行犯たちは去勢のうえ強制労働、計画を立ち上げた者は極刑ということになる」


 王都から送られてきた報告書に目を通しながら、一緒にいるハーヴェイの騎士たちにざっくりと概要を説明する。俺は義父上にこの報告書の内容を知らされていたから、皆に伝える役割は自分で引き受けることにしたんだ。

 計画立案者は、元父上に近しい騎士だったという。その騎士が元父上に心酔している若い騎士たちを煽り立て、今回の事件に持ち込んだとのことだ。……彼は今頃、頭と胴体が離れているんじゃないかな。


「アルタートン家にはお咎めなしっすか。まあ、しょうがないっすけど」


「本人たちは参加してないからなあ。黒幕、とするには証拠が足りないだろうし」


「そうだねえ。まあ、発案者が自分で考えてやりました、実行犯が彼に言われてやりました、って言ってるからな」


 つまんねー、と軽口を叩くナッツの頭に手刀をごつりと落とし、ルビカが難しい顔になる。俺も多分、同じ顔をしてるんだろう。

 立案者と実行犯たちは、元父上とアルタートン家に泥を塗った、と考えている俺への報復として事件を起こした。ただ、元父上も……元兄上もこの事件には関わっていない。元兄上は自室に引きこもったままらしいし、元父上は。


「その代わり、人手が足りなくなったところには子爵家のご当主が積極的に駆り出されているみたいっすね。主に警備とか見回りとか雑魚魔物掃討とか」


「そりゃしょうがないな。当主とはいえ、平の騎士だもんなあ」


「元息子としても頑張れ、としか言えないなあ」


 ……とまあ、そういうことである。

 降格して役職のない、ただの騎士になってしまった元父上は一応ベテランであるからして、その経験を活かしてという名目で団長にこき使われているとかなんとか。今回のことで騎士の数が少なくなったので、その補填にも引っ張り出されている。

 これまでの元父上なら部下を使い、自分は統率役として振る舞うのだろう。そういう人物だとは、騎士団長から伺っていた。ただ、今あの人に部下はいない。自分が、人の部下だ。


「毎回きちんと監視役がついているらしいっすから、御本人の実力で頑張るんじゃないすかね」


 知り合いから聞いたけど、と付け加えるのはナッツ。その知り合いってお母上だよね、多分。

 けどまあ、元父上につける監視役ならそれなりの実力者だろうし、大丈夫だろうな。うん。

 と、元父上といえば。


「……一応、戦闘能力はちゃんと高いと聞いたことはあるんだけどな。実際のところは知らないんだ、見たことないから」


「うちの閣下がおっしゃるには、それは確かだそうです。ただ、最近は部下に任せてたとかでなまってるのではないか、と」


 ルビカがうちの閣下、と呼ぶのは義父上。ああうん、こっちの騎士団が仕える相手だから閣下だよな。俺は義父上って呼んでるけど、それはヴィーの婿になるからで。ただいま準備中。


「んじゃ、これから鍛え直しっすか。いい年して大変っすね」


「まあ、アルタートンだし大丈夫だと思うよ。お祖父様を見てると」


 ナッツが大変そうだなあ、と思うのは訓練のレベルとかかな。いやまあ、俺としては元父上でも何とかすると思っているんだけどね。何しろ、お祖父様を知ってるから。

 でも、考えてみればお祖父様のことをよく知ってるのは俺くらいだからね。


「セオドール様。アルタートンの先代様ってどうなんですか」


「多分、元父上より強いと思うよ。今でも」


「ということは、年取って引退したってわけじゃないんですか」


「ぶっちゃけ、楽隠居したかっただけ」


 ルビカの疑問に、全力でぶちまけてみる。いや、隠すような内容でもないというか、元父上が役に立たないと分かったので現在のアルタートンは実質、お祖父様が当主に復帰してるようなものだし。


「楽隠居っすか。そのくらいには体力持て余しておられたと」


「うん。それが叶わなかったので、よけいにブチギレておられると思うよー」


「わーお」


 体力があるから、隠居してものんびりやっていけるんであって。それが、隠居してられない状態になったので多分、アルタートンの屋敷に戻られたお祖父様はこう、バリバリと当主としてのお仕事をやっておられるだろう。


「で、その先代様は結婚式にお呼びするんですよね?」


「もちろん。俺の養子縁組には協力してもらったし、元々アルタートン家の中では一番仲がいい人だから。ヴィーやハーヴェイのご両親にも許可をもらってる」


 アルタートンの一族では、お祖父様だけ呼ぶことを許してもらった。一応先に手紙を出しておいたんだけど、帰ってきた返事には「よし任せろ、他の奴らに手出しはさせん」と力強く書かれてあった。


「……な、元の兄上は」


 ふと、ルビカがこれまでほぼ消息が出てこなかった一名について尋ねてきた。元母上についても出てこないんだけど、あの人は多分何もしないまま、アルタートンの家にいるだろうから。貴族の当主夫人として必要なことはするんだけど、それ以外はなあ。

 ま、いいか。


「アレ以来、ずっと引きこもりらしい。ナッツのお母上経由で監視してもらってるんだけどさ」


「家ん中で何やらぶつぶつ言ってるらしいっすよ。ありゃもう、家継ぐのも無理っしょ」


「こっちに出てこなきゃ、それでいいや」


 それが、俺が知ってる今のアルタートンの状況だった。頼む近寄るな、としかもう今は思えない。

 元兄上が部屋から出てきても、おそらくはお祖父様にこき使われて部屋に逃げ込むとかそんな感じだろう。

 そういえば、婚姻無効の訴えはなんとかなりそうという話だ。ベルベッタ嬢側にとって。

 今度は、良いお相手が見つかるといいな。俺にとってのヴィーみたいに。

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