62.推測

「で、アルタートンからの団体客はいつ頃来られる予定なのかね?」


 五日後にはある程度情報が集まったということで、義父上が俺やヴィーを執務室に呼んだ。ナッツやリーチャ、ルビカとカルミラも呼ばれているのは多分、この後の指示を受けるためだろう。

 ところで義父上、笑顔で尋ねてますが目が笑ってません。気持ちはわかりますが。


「一ヶ月後ですね。ほら、有給ですし」


「王都守護騎士団なら、半年先でも文句は言わないだろうがな。貴族の当主や次期当主の結婚ともなれば、そのくらい先に予定が入ってもおかしくはないし」


 ナッツの報告に、義父上のこめかみに青筋が増えた。ナッツのせいではないので、彼は平然としている。


「まあ、旅行だの何だのといった理由なら一ヶ月先は妥当、ですかね」


「妥当でなくとも、オートミリア団長なら察しはついていますね。だからこそ許可した上で、こちらに言ってきたわけで」


 リーチャとルビカの会話内容は、確かにと俺に思わせるものだ。単なる有給申請なので、下手に断る理由はない。面倒だよね、こういうの。

 つまり、一ヶ月後に元父上の部下たちが大挙して動く。さて、彼らは何をしたいのかよくわからないけれど、でも。


「一ヶ月で準備できる騒動となると……何がございますかしらね」


「暗殺っすかね?」


 ふむ、と首を傾げたヴィーの呟きに、さくっと答えるナッツはどうかと思う。主に内容が。

 そのせいで、発言した次の瞬間ルビカにぼこっと殴られてる。まあ軽くなので、ナッツは涙目になってるくらいだけど。


「けろっとした顔で言うな。あと、さすがにそれはプロに依頼しないと無理じゃないか?」


「セオドール様。アルタートンのお家、その手の知り合いおられました?」


「……俺の知ってる限りではない、と思うけど……」


 こちらもさくっと尋ねてくるリーチャに、一応答えよう。元父上だけが知ってるとか、そういう話であれば分からないけれど。

 ヴィーがきゅ、と俺の肘に手を回してくれて、何だか落ち着いた感じがする。


「そうすると、主要な建物の破壊とか単にチンピラが暴れるとか、ですかしら」


「仰々しく戦をなさりには来られないでしょうから、その辺りを警戒するべきかと思われます」


 そのヴィーはカルミラと顔を合わせ、同時にうんと頷いた。確かに、有給取って旅行に来るのならまともな武装はしないだろうしな。こちらにその手の知り合いでもいれば別だろうけれど、ここは彼らにとっては敵陣だからね。


「一応、食料品と水も気をつけておきますか」


「あ、田畑も気をつけるに越したことはないっす」


「それはこちらに任せてくださいな。あたしらが本職ですし」


「そうだな。リーチャ、田畑を荒らす『獣』に遠慮はいらん」


「承知しました」


 ルビカ、ナッツ、リーチャ。

 皆が気をつけたほうがいい、という点はそれ、敵地への潜入部隊がやらかすところだぞ。

 いやでも、単なる嫌がらせだとしても十二分に効果の出る箇所だしなあ。確かに、注意しなければならないだろう。


 ……ん?


「どうなさいました? セオドール様」


 俺がふと思いついたことで何か反応したのか、ヴィーが俺を伺ってきた。

 いや、もう一つあるじゃないか。ハーヴェイ領にあって、アルタートンも知っていて、あと俺たちへの嫌がらせには最適な場所。


「シャナン・ファクトリーにも警備を増やしたほうがいい、と思います。元々アルタートンの取引先だから、婚礼衣装はそこで作るだろうと向こうも踏んでるはずだ」


『あ』


 俺が指摘すると、全員がそこは意外だったというように目を見開いた。確かに婚礼衣装を作ってくれるスタッフはハーヴェイ邸にいるけれど、ランデールさんとかは基本的にシャニオールにいるわけだし。


「けど、ハーヴェイの屋敷守ってれば衣装は大丈夫じゃないかしら?」


「でもですよ、リーチャさん。シャニオールの店とかランデールさん抑えられて、あちらのスタッフに何か命令されたらどうするんですか」


「うわー、効果ありそー」


 ぶっちゃけ、そういう方法考えつく俺もどうかと思うんだよ。ただ、元アルタートンの俺がそんなこと考えるんだから、元父上とか元兄上とかが考えついてもおかしくないんだよね。うん。

 俺たちの話を聞いていた義父上は、しばらく考えて「分かった」と頷いてくれた。


「セオドール君の言う通り、シャナン・ファクトリーにもうちから人員を派遣しよう。……カルミラ、お仕事だよ」


「はい、お任せください」


 どんなお仕事か、も聞かずに答えるカルミラは、多分もう任務を理解してるんだろうな。できることをやるしかない、わけだし。

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