53.騎士団へ向かう

 ひとまずエルザントの三男になったお祝いをした、翌日。ああ、ミリアーナ様は体調が良かったようで、一緒に食事を取れた。よかったよかった。

 ま、それはともかくとして。


「事情聴取……です、か」


「うん。ごめんね、せっかく王都にいるんだから遊びたいよね」


「いえ、気にしないでください」


 養父上に謝られてしまった。いや、悪いのは多分アルタートンの父上だと思うんだけどさ。

 昨夜、養父上は俺の養子縁組の手続きを済ませたついでに王都守護騎士団の団長さんにお話をしてきたとのこと。で、アルタートンの兄上はともかく父上も大概なことをやっていたようなので、被害者の一人である俺に話を聞きたいんだそうだ。

 そういや、俺がハーヴェイに向かうときに家からルフェンまで護衛してくれたの、ルフェンに向かう騎士団の人たちだったもんな。あれ、多分おかしいよな、うん。


「アルタートンの家の中のこととなると、俺じゃないとわからないこともありますし」


「そういうこと。一応ね、調査はしてあるんだけど本人の証言も欲しいんだって」


「そういう事なら、いくらでも協力しますから」


 いやもう、何で養父上がぺこぺこしてくるかなあ。……俺は本当に、話を聞いてくれるのならば協力するつもりだし。

 それで兄上や父上、アルタートンの家がどうにかなったら……多分悪いのあっちだし。

 それに、エルザントの家族は味方だってこの短い時間で理解できたから。今だって、ラグラ養兄上が俺の肩をぽんと叩いてくれたわけで。


「今日の付き添いは俺だから、安心してくれて良いぞ。さすがにヴァイオレット嬢は連れていけんが」


「わたくし、お義母様やミリアーナ様とお話しておりますから大丈夫ですわ。多分」


「多分?」


 既に、王宮に向かう準備済みなんだよね。だから、ヴィーは見送りに来てくれている。シード養兄上は今日はお仕事で早めに出てるし。養母上はミリアーナ養姉上のところだとか。

 でまあ、女性同士で集まってお話とかは何の問題もないと思うのだけれど、言葉の最後の多分って何ですか。まあ、その疑問の答えは養父上が出してくれたんだけど。


「セオドールに何かあったら黙っちゃいない、ってことだろ? まあ、気持ちは分かるしエルザントの三男だからね、僕だって黙ってないけど」


「それは、長男として俺が責任を持って対処する。父上、いいですよね?」


「もちろん。今日は僕から委任するから、エルザント公爵家の総意としてちゃんと対処してきていいよ」


「ありがとうございます!」


「え、ええと……」


 養父上、ラグラ養兄上、共に何だかやる気を出しておられる。本来ならば、俺がちゃんとしなくちゃいけないのにな。

 そんなことを思っていたら、ヴィーが俺の手をきゅっと握ってくれた。


「セオドール様はお義父様のご子息でラグラ様の弟なのですから、お任せしてもよろしいのではありませんか? エルザント公爵家の皆様は、きっと頼りになりますわよ」


「あ、ありがとう。そう、だね」


 そっか、頼っていいんだ。アルタートンの家族に慣れてしまっていたけど、ハーヴェイの義父上や義母上も良くしてくれているもんな。その義父上が俺の養子先として決めてくれたんだったら、エルザントだって。


「ラグラ養兄上、頼りにしていいんですよね」


「もちろんさ。新しい弟に、俺が兄として偉いんだってところを見せてやるからな」


 ラグラ養兄上がロードリック兄上と違うのは、『兄として偉い』の方向性もあるんだろうな。

 ロードリック兄上は、俺が兄で偉いんだからお前は俺に従え、って感じだった。アルタートンの家では兄上が跡継ぎだし、それが当然だと俺は思っていた。

 ラグラ養兄上は多分、俺が兄で偉いんだから弟を守ってやるぞ、という感じ。シード養兄上と仲が良いのも、少なくともラグラ養兄上はそういう風に接していたからだと思う。

 ……頼って良い、んなら少しだけ、頼ってみたい。あにうえ、だし。


「そういうことでしたら、お願いします。養父上、ヴィー、養母上や養姉上のこと、頼みます」


「ははは、当主が家族を守るのは当然じゃないか。任せておけ」


「お任せくださいませ、セオドール様。大切な大切なご家族ですものね」


 うん、養父上も、大切な婚約者も、頼って良いんだ。あ、なんか、とっても嬉しい。




 そうしてエルザントの屋敷を出て、王宮に入った。すぐご近所さんなので徒歩でも行けるのだけれど、次期当主であるラグラ養兄上もいるのでちゃんと馬車での移動だ。

 王宮は当然というか、エルザントの屋敷より広い。王家の住まう王城を中心に、王都守護騎士団の基地や大臣などの偉い人が政務を行う会議所なども存在しているからね。

 で、俺たちが向かうのは王都守護騎士団基地の、団長室。基地の前で馬車を降りて、騎士さんの先導について向かう途中。


「セオドール!?」


 ……うわ。

 ラグラ養兄上がわかりやすく顔をしかめたけれど、多分俺も同じような顔をしている。

 何しろあの声は、アルタートンの父上の声だったから。……ああ、もう父上じゃないのか。アルタートン伯爵、か。

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