41.たからかに
「がっ!」
「ぐはっ!」
しばらく打ち合っていたプファルとセディが、ほぼ同時に落馬した。一応、地面にはショック軽減の術式が敷かれているらしいから大丈夫だとは思うけど。
「おらあ!」
「ぐふっ!」
カルミラを倒した二人のうち一人を、ルビカが正面からどつき倒した。……ランスでぼこぼこに殴ったんだから、どつき倒すで間違いないよな? ただ、もう一人から蹴り飛ばされてミストごと倒れたけれど。
あちらにも、そういう戦法取る人はいたんだ。兄上はともかく主賓席の父上がすっごく嫌そうな顔してるけれど、実戦ではそういうものだと俺は思う。というか父上、現場でああいう対処したことないわけないだろうに。魔物を蹴り飛ばすとか。
「いい加減に凝りなあっ!」
「そちらこそ!」
リーチャは相変わらず一騎打ち中。相手も腕がいい人のようで、観客の視線がそちらに向いてるのが分かる。もう、あれは任せておこう。
こちらはヴィーとナッツ、俺、リーチャ。あちらは兄上とルビカを蹴った人、それにリーチャの相手。ナッツとリーチャ組を抜くと、二対二になるか。よし、と思って肩越しにヴィーを見やる。
「そろそろ前に出るよ、ヴィー」
「分かりました。ナッツ、周囲に目を」
「了解。どうせ、ご自身でも戦やりたいんでしょう?」
「ええもちろん」
ものすごくノリノリなヴィーと、ため息混じりのナッツの声が背中にぶつかる。ですよねー伊達にハーヴェイの次期当主じゃないもんねー。そういうところが、俺をアルタートンから引きずり出してくれたんだろうけどさ。
と、ヴィーの視線が遠くに向いた。考えるまでもない、相手方の大将だ。つまり、ロードリック兄上。
「でも、その前にあちらの大将様は、戦いたい方がいらっしゃるようですわよ?」
「出てこいセオドール! 大将たるハーヴェイ辺境伯令嬢を倒す前に、この兄がお前に引導を渡してやろう!」
………………。
いやまあ、そう言ってきてもおかしくないとは思っていたけれど。父上と奥方が見てるしな。まあしょうがないか、とチョコの脇腹を軽く蹴って前に進む。兄上も、いそいそと前に出てきた。
「降参するなら今のうちだぞ。お前なんぞに、俺が倒せるわけがないからな」
「俺が降参したところで、そちらが勝つわけでなし。それにあなた、俺と騎馬戦闘するのは初めてですよね」
一応、正論で答えておこう。
兄上側が勝利するには、ヴィーを落馬させないといけない。
俺はアルタートンでは、乗馬すらろくに教わっていない。ハーヴェイに移って、チョコが乗せてくれたからできるようになっただけで。
それと、兄上を煽るため。
「何だとお!」
兄上はあのように分かりやすく怒ってくれるので、助かる。俺はぱしん、と手綱を使った。
「チョコ、行くぞ!」
「ひん!」
わかった、と一つ鳴いてチョコは、蹄の音を響かせながら突進していく。一瞬、兄上の馬が驚いたように見えたのは気のせいか。
「ミングウェイ! あんなでか馬ごときに負けるな!」
いや、気のせいじゃなかった。って、でか馬ってチョコのことか?
「あら、いやですわロードリック殿」
突進を止めないチョコと、その上でランスを構える俺に代わってヴィーが高らかに吠えた。うん、アレは吠えたと言って良い。
「セオドール様のチョコはとてもとても、頭の良い子ですのよ!」
「ひひいいいいいん!」
「へ、わっ!」
「ひひいっ!」
そう、チョコはとても頭が良い。俺を背に乗せて、馬の乗り方……というよりは自分の操り方を俺に教えてくれたし。
馬を数頭舎弟にしてしまって、どうやら集団行動も教えたのではないかという噂だし。……実際どうなんだろうね?
まあそれはともかく、チョコのいななきでミングウェイか、兄上の馬が立ちすくんでしまって動かない。俺はランスを構えて、わざと大振りにしてやる。いくら何でも、兄上なら受けられるだろう。ほら。
「き、貴様! 汚いぞ!」
「相手のいななき程度で固まる馬を、使ってるんですか! ほら、俺には負けないんですよね!」
がき、がきん。ランスがぶつかり合う音にはミングウェイは反応してないようなので、本当にチョコに怯えている模様。いや、馬に怯える馬って魔物相手には大丈夫なのか? それとも、チョコのほうが魔物より怖い? いやいやまさか。
「他の皆様は、わたくしとシルファがお相手いたしますわ! さあ、かかっておいでなさいませ! このわたくし、ヴァイオレット・ハーヴェイに!」
ほほほほほ、と高笑いをするヴィーに向かうのは、ルビカを蹴った騎士。ナッツがさっさと後退していくのが見えたが、彼はその目で状況を見極めるのが役目だったからもう大丈夫だろう。
「おのれ、大将首を取れるチャンスなのに!」
「あんたはここから進ませないよ!」
リーチャのところは、完全に拮抗してるな。あとは、俺が兄上を殴り落とせば勝てる。頑張ろう、チョコ。
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