40.はたき落とす
「プファル・ハーベスト参る!」
真っ先に、プファルが突進を始めた。頑張れイーフ、と思いながらその先を見ると、向こう側からも同じように突っ込んでくる騎馬。
「おお、ハーヴェイの分家かあ! セディ・ガーリング、行くぜ!」
どうやら似たような性格であるらしい二騎がまず、模擬戦用のランスで突き合った。お互い、うまく透かしたようでそのまま戦闘に入る。その向こう、アルタートン勢が前進を始めているのを見て、ルビカがミストの腹をとん、と蹴った。
それにしても、名乗るかプファル。あと向こうのセディさんとやら、俺は知らない人だ。
「……騎士同士の模擬戦とは言え、名乗らなくていいんだよな?」
「と思いますけど。ま、プファルだし」
俺の疑問には、ナッツが答えてくれた。そうだよな、プファルだもんなと納得してしまう辺り、俺もすっかりハーヴェイに染まっているなと思う。
とか考えているうちに、ルビカが別の騎士と接敵した。リーチャとカルミラも前進しているので、俺も構えよう。
「相手はガーリングですから、夫人のご親族のようですわね」
「こっちの騎士団に分家のプファルがいるんだから、向こうにいてもおかしくないか」
ヴィーは自然体だけど、視線は戦場に向けられたまま。大将であり、落馬されたら終わりなので俺が守らないとな。
と、ナッツが声を上げた。
「来ます、左右からこちらに手槍投擲」
「分かった」
手槍を投げるには、どうしても準備動作が必要。あと、上級者でもなきゃ馬は停止してないとバランスがね。そういうわけで、ナッツはそういった敵の動作に集中している。
「いや、あんた馬鹿じゃないの?」
「がっ!」
左側の一騎を、リーチャがランスでぶん殴る。投擲姿勢に入ってたところだから、胴体がら空きなんだよね。けど、そちらの騎士は落馬せずに手槍を持ち替えてリーチャと殴り合いに入った。ベテランらしく、器用に立ち回っている。
「手槍投擲は、後方からやるものでは?」
右側の方は、カルミラがランスをまっすぐにぶつける。あ、そちらの騎士はぐらりと揺れて落馬した。と、思ったらその襟足を、ラムがかぷっと噛んだ。うまく軟着陸させたようだ。
「よくやった、ラム」
「ひんっ」
同数同士の場合、最初は単に一対一がその数だけあるって感じになる。大将がいきなり前に出ることはまずないし、敵陣営の一人を集中攻撃したらほら、騎士同士だし観客がいるからね。
と言っても、今のように一人減ったくらいで調子に乗る訳にはいかない。一人落としたカルミラのところに突っ込んできたのは、割と大柄な馬に乗った騎士。乗り手もかなりしっかりした体格だから、そういう馬じゃないと動けないんだろう。
「はっ!」
「ふんっ!」
お互い駆け抜けながら、ランスをぶつける。カルミラがぐらりと揺れながら駆け抜けてしまい、相手の騎士はそのままこちらに突っ込んでくる。ヴィーのところまで行かせるわけにはいかないから、次は俺だね。
チョコに声をかけて、前に出ながらこちらもランスを構えた。
「行くよ、チョコ」
「ひひん!」
「セオドール! ここで、潰させて頂く!」
あ、あの騎士、そもそも俺狙いか。兄上の部下だし、そういう命令が出ているのだろうか。それとも、事務処理に苦労した私怨か。
どっちでも良い、こちらこそここで潰させてもらおう。狙うはランス、ではなくそれを持っている手。腕、でもいい。
「はあっ!」
「っ!」
もちろん、向こうだって防御用に小手とかつけてるし、当然それである程度は防げるのだけれどうまく、俺の一撃は入れられたようだ。落ちたランスを、俺のランスの穂先でくるりと絡め取る。それを、チョコがぱくりとくわえて。
「よいしょ。お返しします」
「ふんっ!」
「ぐはっ!」
見事に、相手の腹に横殴りの一撃が入った。ついでにそのまま騎士を引っ掛けて、よいしょと地面に下ろす。馬は乗り手がいなくなって軽くなったので、慌てて逃げてくれた。
しかし、あのランスは俺が投げ返すつもりだったんだけど、さすがチョコだ。力はパワーだ……って、俺何言ってるんだか。
「きゃ!」
……ほら、そんなこと言っているからカルミラを助けに行けなかった。向こうに駆け抜けてしまった彼女を、二人がかりではたき落としたのだから仕方ないとはいえ。
「ええい! セオドールと大将を狙え、お前らあ!」
「は、はい!」
向こうの陣、兄上が叫んでいるのが見える。こちらは現在六人、あちらは五人。さて、兄上はいつ出てくるか。
………………まさか出てこない、とは言わないよな? 父上と、奥方が見ているぞ。
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