27.焼肉パーティ

 仕留めた大猪一家を運び、皮剥いで血抜きやら分解やらして、夕日が沈む頃。


「それでは皆の衆、乾杯!」


『かんぱーい!』


 騎士団本部では、団員全員を巻き込んでの焼肉パーティというかどう見てもバーベキューパーティが始まってしまった。乾杯の音頭を取ったのは、騎士団だからということで団長のダンテさんである。

 大猪を狩ったのでその肉がメイン、とはいえ野菜ももちろんあるし、在庫から今後困らない程度の別種の肉も引っ張り出されてくる。

 その代わりにというか、大猪の肉もある程度は保存のために干し肉なり何なりの処理を受けている。まあ、今食ってるタンが美味いからいいか。

 それにしても。


「こんな感じで、焼肉パーティになるとは思わなかった……」


「時々あるんですのよ。今日のように、大物を仕留めた時などは」


「こういうことをやれば、みんなもやる気が出るからね」


 お皿に積み上げた肉をもりもりと食べながら、ヴィーが説明してくれる。その隣でリーチャが、骨付き肉にかぶりつきながら上機嫌だ。作法はともかく美味しいもんな、あの食べ方。


「まあ、確かにやる気は出るか」


 視線の先には、とにかく肉を食って笑顔いっぱいの騎士団員たち。ルビカもナッツも、なにげにプファルもしっかり自分用の肉を確保してるし。おいお前ら野菜も食えよ、そのとうもろこしは甘くて美味しいんだから。


「……でまあ、参戦した俺たちはいいんだけど」


 その視線を少しずらす。ダンテさんはワインを嗜んでおられるようで、既に顔が少し赤い。

 で、その隣にいた二人がこちらに気づいて「やあ」「うふふ、楽しんでるかしら?」と歩み寄ってきた。えー、辺境伯夫妻である。何でだ。


「何で義父上と義母上がいるんですか。いや、お楽しみのようでいいんですが」


「それはもちろん、ヴィーとセオドール君が共同で大猪を仕留めたと聞いたからな!」


 義父上は、リーチャが食べていたよりも大きな骨付き肉を半分以上平らげておられる。喜んでくれているようなので何よりだけれど、一応訂正もしておこう。プファルに悪い。


「プファルも協力してくれたんですよ」


「まあ。頑張ってくれたの? ありがとう、プファル」


「と、当然のことです!」


 薄切りの肉で野菜を巻いて食べながら、義母上は離れたところにいたプファルを見つけて声をかけてくれた。サイコロステーキを食べていたプファルが慌てて姿勢を正すのは、さすがハーヴェイの分家というか。教育が行き届いている感じがする。


「ふふ、あなたがいてくれればハーベストも安泰ね。ヴィーとセオドール君に、力を貸してあげてね」


「は、はい! それはもちろん!」


 義母上の言葉に舞い上がるように返事をしたプファルだったんだけど、一瞬後にあ、という顔になって……微妙にへこんだ気がする。何でだろう? ちょうど、その横をルビカとナッツが通ってきたから聞いてみよう。


「……そりゃお前、マジェスタ様にとどめ刺されたからだろ」


「とどめ」


「ハーベストは安泰、ヴァイオレット様とセオドールに力を貸せ。要は、ハーベストの次期当主としてお前さんたちの補佐に回れっつってんだよ」


「…………あ」


 ルビカにずばりと言われて、さすがに理解できた。そうだ、プファルはヴィーの婿になりたかったんだっけな。ハーベスト家の方の意向かもしれないけど。

 義母上、そういうことさらっと言える方なんだな。言い方がこう、うまくぼかしてる割にわかりやすい、んだろう。俺もちゃんと、理解できるようにならないとな。


「マジェスタ様も辺境伯様も、セオドールのこと結構気に入ってるみたいだしなあ。ですよね」


「うむ。ヴィーも良い婿を見つけてくれたものだ、と私もマージも喜んでいるよ」


「は、はい。ありがとうございます」


 ナッツが話を振ると、義父上はにこにこ笑いながら大きく頷いてくれた。こういう笑顔、ヴィーと似てるんだよなあって親子なんだから当然といえば当然か。


「まあ、ヴィーが気に入った相手だからな。こちらとしても、下調べはしっかりやらせてもらったよ」


「そうそう。それで来たのがセオドール君だもの、何の問題もないわ」


「一番の問題は、あちらさまでしたものね」


 義父上、義母上、ヴィー。皆、俺を受け入れてくれた素敵な家族だと思う。

 そしてヴィーの言う通り、俺をここに連れてくるに当たっての最大の問題は『あちらさま』……すなわちアルタートンの実家。

 俺をヴィーの婿に迎えるという作戦は、今のところはうまくいっていると思う。


「あ、そう言えば。アルタートンの嫡男から、五度目の文が届いているのよね」


「兄上から?」


 義母上が不意に言葉にした内容に、思わず俺は声を上げた。ヴィーも、ルビカやナッツもうわあ、という顔になる。

 アルタートンの嫡男、つまりロードリック兄上から手紙が届いている。しかも五回目。


「四度まではこちらのご機嫌伺いだったが、今回は違うのか?」


「ええ。ヴィーに、嫡男の結婚式に出席しろ、と言ってきたわ。意訳だけど」


「え、嫌ですわ」


 義父上も、義母上もものすごーく不快な顔をしている。おそらく兄上、上から目線で書いた内容なんだろうなあ。もしくは、誰かに口述筆記させたか。

 そしてヴィー、気持ちは分かる。正直、俺も行かせたくない。

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