第20話

   朝陽の告白6


 私は間違いを犯したのだ……。


 母が亡くなったとき、私は寂しかった。それと同時に、弟を守ろうという気持ちが強くなった。


 父親には頼れない。姉と弟――。二人きりの生活……。


 まだ小学生、しかも低学年だった私と、保育園にかよう弟――。


 それはほんの誤りだった。


 弟をお風呂に入れていたとき、私は不意に泣きだしてしまう。まだお葬式が終わって、初七日も終わっていないときだ。


 そんな日なのに、父親は仕事にいった。


 寂しかった? 多分、そう……。やることは変わりない。だけど、これまでは母親が帰ってくるのを待つ。そこまで……という時限的な条件が消え、これが未来永劫つづくと、改めて思った。


 心の奥底にぽっかりと開いた、母親という強固な支えが、今の私に実感としてのしかかってくる。


 つながりを求めていた。一緒になりたかった。だから、私の人になり損ねたところに、弟のなり余ったところを埋めた。


 弟はびっくりした顔をしていたけれど、私のすることを邪魔しなかった。


 弟のそこが大きくなっていたか? そんなことは憶えていない。でも、丁寧にむいて、それを私の中に導いたとき、確かに私は心が少しは満たされた気がしていた。


 私と、弟の罪はその日にはじまった。


 誰にもいえない、二人だけの関係――。


 弟は私の為すがままに、お風呂に入るたびに、その行為をくり返していた。


 私はその行為がどういうものか? 薄々感づいていたけれど、それをつづけた。だけど、このままではいけない……と一年と少しで止めた。


 そして、しばらくして夕陽と、幼馴染の水穂が、ソファーでしているのを見た。


 そのとき、私は注意することができなかった。


 だって少し前まで、私としていたことだったから。そして私は気づいたのだ。私が弟を慰みにしていたのだ……と。


 夕陽がそれをする光景は、私が拒絶した日にみせた、寂しそうな表情にみえた。


 彼がものごころもつく前からはじまった、姉と弟の不適切な関係――。それをしなくなったことで、彼が色々な女の子と関係するのは、それを埋める行為なのだ。


 そして時おり、私のことも求めてくる。大きくなって、力も強くなって、私のことを強引に押さえつけることができるようになったから。


 両親が旅行にでかけた日、私と夕陽はそれこそ泥のようにまじわり、まぐわい、男女となった。小さいころ、まだ何ものでもなかったころのそれとは、まったくちがった。


 彼は私の中に何度も、そうしたかっただろうものをぶちまけ、私も彼のそうした行為に、悦楽をおぼえた。


 もう後もどりできない……。


 否、もう大人になったのだ。それが今さら、子供にもどることなんてできない。あのころの過ちは消せない。


 消せないから、私たちは上書きしていく。新しい、姉と弟という関係として、身体を求め合う行為を……。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る