第15話

     朝陽の告白5


 家族が増えて、やることが増えた。両親ともに働いており、祐奈のことも私がするようになったからだ。


 彼女は頭のいい子……。ただ、抜け目なさも感じる。


 一人っ子だけれど、母一人だったこともあり、愛情を一身にうけて……という感じでもない。むしろ自分にとって都合よく、うまく世渡りできるような調子の良さ、を感じさせる。


 それも現代っ子かな……。自分にはないけれど……。


 そんなとき、両親が旅行する話がでてきた。


 私も驚いたけれど、新婚旅行も、結婚式さえ挙げておらず、夫婦らしいことは何一つしていない。そういうことをすることも必要かも……と納得した。


 夕陽は一緒に行くことを拒絶した。まだ馴染んでいない母親と一緒に旅行するなんて、彼にとっては考えられないはずだ。


 驚いたのは、祐奈が一緒に行く、といいだしたこと。彼女は察しの良い子なので、両親の意図を汲んで、二人きりにしてあげる……と思っていた。


 でも、母親をとられる……とでも思ったのかしら? だけど、それで困ったことになったのは私だ。


 夕陽と、祐奈をお世話するのなら、むしろよかった。


 夕陽と二人きり……。


 それは久しぶりのことであり、おおよその予想もつく。それが嬉しい? ううん、喜んじゃダメ。


 彼に求められても、拒絶しなくては……。


 心ではそう思っていても、身体の方は反応してしまう。


 私は、濡れている……。


 今からもう、身体が準備をはじめている。


 否定したい……。でも否定したところで、自分の身体の反応が止められるとは思えなかった。


 あの経験が、私をそうさせる。


 それは身体を重ねた経験ではない。それよりずっと前、私と彼が、姉と弟であったときのこと。


 私は……夕陽のことが好き? 多分、ちがう。それよりもっと根源的なところで、彼と一緒にいる。


 家族だからではない。きっと二人でいること、そうすることが私たちにとって必須となったその日に、私たちの関係は決まってしまったのだ。


 母親代わり……という言葉を隠れ蓑にした、秘密の関係に。


 両親が旅行に行ったその日、私と夕陽は泥のように交じり合った。


 何度も、何度も、枯れるまで……。これまで重ねられなかった分、身体を求め合った。


 眠ることも忘れ、息をすることも、心臓を動かすことさえ、優先順位は低かった。


 一つになる? それもちがう。私たちは家族……いいえ、家族以上になった。


 あの日、母親が亡くなった後、お葬式が終わって、そんな日でも父親は仕事に行った。


 二人きりになったこの家で、私たちはあの日、家族とはちがう関係になったのだ。


 泣きじゃくる私に、夕陽がかけてくれた言葉で、私たちは変わった。


「ボクが……お母さんの代わりになるよ」


 まだ幼稚園に通う弟が、そういって私を励まそうとした。私はそのとき、泣くのを止めた。私が、夕陽のお母さんにならなくっちゃ……。そう決意した。


 でも、このときから私たちは歪んでしまったのだ。好きとか、そういう以前に私たちは家族以上になってしまったのだ……。


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