第11話

   祐奈の告白1


 母親から突然、「姉と兄ができる」と言われた。母親が誰かと付き合っている、という話は聞いていた。


 ただこれまで、母親が何度か恋人をつくったことはあるけれど、新しいお父さんができることはなく、今度もそうだろうと思っていたので、驚いた。


 いつか、そういう日がくるだろうと思っていた。お母さんは私に「お父さんが必要だ」と言っていたし、そのために再婚にむけて活動していたからだ。


 私は正直、どっちでもよかった。


 母親が忙しい分、祖母がよく訪ねてきてくれたし、困ることはなかったからだ。でも、祖母にも負担になっていただろうし、その意味でも新しい家族ができて、生活が落ち着く方がいい……、それぐらいの認識だった。


 父親と紹介された人は、何だかパッとしない人だ。かっこいいのだろうが、外見に拘りがなく、仕事に疲れている感じがみてとれた。むしろ何かを忘れたくて、仕事に没頭している人のようだ。


 初めて会ったお姉ちゃん、お兄ちゃんも、ちょっと変わっていると思った。


 お姉ちゃんは色々と気苦労が多いのか、薄幸そうにみえる。


 お兄ちゃんはいつも何かに不満なのか、笑顔もなく、仏頂面を浮かべるばかり。


 この結婚に、あまり乗り気でない様子がうかがえた。


 それはそうだろう。そのとき、私は小学生で敏感な年齢ではあったけれど、お兄ちゃんは中学生。思春期ど真ん中だ。


 私は物分かりのいい性格だと、自分でも思っているけれど、お兄ちゃんはちがうのかもしれない。


 でも、お姉ちゃんは優しくて、私への気配りも怠らない。母親代わりをつとめてきた、というだけあって、家事もすべてこなす。


 両親が仕事をしていて帰りも遅いので、お姉ちゃんが一人で家をまわしているような感じだ。


 お父さんじゃなく、私には新しくお母さんができた。


 ただ、そのお母さん……お姉ちゃんは、お兄ちゃんへの気遣いが半端ない。何でそんなに引け目に感じているんだろう?


 お兄ちゃんが何かをいうと、基本お姉ちゃんはすべて受け入れる。反対したり、意見したりもしない。


 お兄ちゃんが、お姉ちゃんに対して命令形……ということではない。


 お姉ちゃんが卑屈なわけでもない。


 でも、二人の間には何とも言えない上下があって、お姉ちゃんはお兄ちゃんに逆らわないし、お兄ちゃんも受け入れてもらえることを前提に、行動しているようなところがある。


 変な姉弟――。


 私はそれほど、仲良くするつもりはなかった。通り一遍の関係さえ結んでおけば、母親だって喜ぶし、相手にだって嫌われない。それぐらいソツなくこなしてみせる、と考えていた。


 でも、この変な姉弟のことは、もっと観察したくなった。


 それは家族だからではなく、純粋な興味として、私の姉と、兄の関係をみていたいと思ったのだ。


 だから私はずっと傍観者だった。


 二人のことを、ごく身近でみていた。だから分かる。あんな結果になるなんて、このときの私たちは誰も思っていなかったって……。



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