第9話

   亜香里の告白2


 私はお兄ちゃんの特別ではない。


 そんなことは最初から分かっていた。


 だから恋愛感情はない。


 こうして会うのは、お兄ちゃんとするそれが気持ちいいからだ。


 でもある日、それを否定することが起きた。


 お母さんには恋人がいる。シングルマザーのお母さんは、いずれ結婚するかも……といって、その男の人を家に入れる。


 その男の人から、ある日手をつかまれ、キスを強要されたのだ。


 突き飛ばして逃げたけれど、私は家に帰れなくなった。


 お兄ちゃんとは気持ちいいはずのことが、あの男の人は嫌!


 絶対にしたくない。


 でもいつかあの家にいたら、私はそれをされてしまうだろう。お母さんに話しても理解してくれない。


 そんなことをするはずない、と私を嘘つき扱いする。


 もう私に、居場所はない、


「お兄ちゃん、いつものことしよう」


 アパートの部屋に誰もいないとき、私は彼を誘った。


 いつものこと……。私がお兄ちゃんの上にまたがって、好き放題に動く。ダイニング、キッチン、お風呂、いつもいる四畳半でも、私たちはした。


 お兄ちゃんとはこんなに積極的になれるのに、また気持ちいいのに、あの男の人は絶対に嫌……。そう思うのは何でだろう?


 私はお兄ちゃんの上で跳ねる。お兄ちゃんの顔が、私の前で上下にいったり、来たり……。


 あぁ、これだ。最初、お兄ちゃんと遊びでこれをしたとき、気になった。楽しそうに笑う、その表情に惹きつけられたんだ……。


 どこか寂し気で、心から愉しんでいない。それが不思議だった。


 私はお母さんたちが、何をしているか知りたかったけれど、お兄ちゃんはそれが何を意味するか? 知っていた……。


 知っていて、それが気持ちいいとか、そういうこととは別に、一抹の寂しさを抱えていた……。


 だからどんどんのめり込んでいった。ううん、お兄ちゃんを私にのめり込ませた。


 私もそれが何かを知りたくて……。


 お母さんとあの人とのそれに、そういうところはない。ただ、ケモノのようなやりとりがあるだけだ。


「お兄ちゃん……、お兄ちゃん……」


 私は意味もなく、そう連呼した。台所で、四畳半の部屋で、お風呂で、トイレでも私たちはそれをした。この部屋で、私とお兄ちゃんとの匂いを、記憶を少しでも残しておきたくて……。


 お兄ちゃんのそれが、私の中で行ったり来たり……。


 お兄ちゃんと私はその日、真につながることができた……と思った。


 私はその日を最後に、祖母の家で暮らすことになった。母親とは折り合いが悪く、会ったことも少なかったけれど「いつでもおいで」と言ってくれていたので、それに頼ったのだ。


 お兄ちゃんと、もう会えなくなるのは寂しかったけれど、あの男の人がくる家には居たくなかった。


 いつか、もっと大きくなったとき、お兄ちゃんに会いに行こう。私のそれがもっと大人になったとき、お兄ちゃんのそれをちゃんと受け止められるようになったとき、私はお兄ちゃんに会いに行く。


 ううん、お兄ちゃんと交合しに行くんだ。

 



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