第6話
朝陽の告白3
母親がいない雨空家では、小学生のころから私が家事を担当する。
父親は忙しく、ほとんどの時間を私と、夕陽だけで過ごした。
それはいつでも、二人の時間ということ――。
私がソファーにすわっていると、夕陽は私の足の上にまたがってきて、正対すると私の胸を揉んでくる。
私はそれを拒絶しなかった。
母親がいない夕陽のために、母親代わりになろう……。そう決めていたから。
本物の親子が、どういうものか? おぼろげにしか知らない。私がものごろこつくころには、母親は入院していることが多くて、私は甘えることができなかった。
それは夕陽も同じ、さらに母親に触れあうことさえなかった。
だから私が、少しでも彼の気持ちを癒そうと考えていた。
彼はそれに飽き足らなくなると、私の服をひっぱり上げ、乳首に吸いつく。私はそれを容認した。むしろ、ちょっと気持ちいい……とさえ感じていた。
姉弟として、歪んでいるとは感じていた。多分、ふつうの姉弟はしない。でも、親がいないから仕方ない……と、私は自分を納得させていた。
夕陽の頭を優しく撫でる。夕陽は身をのりだすようにして、私の唇を求めてくるので、私もその頭を優しくかき抱き、そのめくれ上がるほどに強く、強く唇を結ばせるのを受け入れる。
一緒にお風呂にも入っている。
だから裸をみられても平気だし、そうしてキスをしているとき、夕陽が私の胸を揉んできても、問題ない。ただ、私の気持ちが盛り上がるのを抑えるのが、少し大変というぐらいだ。
弟と……、感じてはいけない。だってそれは、男女のそれではない。親子のそれでなければいけないから。
それが私の制約。それさえ守っていれば、大丈夫と思っていた。歪んでいても、いつか真っ直ぐにもどると考えていた。
でも、それは夕陽のことを考えてのことではない。
夕陽は姉と、こんなことをしているって、どう思っているのだろう……?
時おり浮かぶそういう疑念を、私は無理に遠ざけた。
考えると大変なことになる……と分かっているから。だから見て見ぬふりをした。考えないようにした。
今になって思う。あのとき、夕陽のことをもう少し考えていたら……と。
母親が亡くなってからはじまった、弟との歪な関係を、弟がどう思っていたのか、聞いておけばよかった……と。
もうそれが叶わなくなったからこそ、そう考えるのかもしれない。あのときはそんなことを考えてもいなかった。否、考えようとしなかった。
弟は興奮してきたのか、自分の膨らんだ部分を私の太ももにこすりつけてきた。
「ダメ……」
私はちょっと睨むようにして、そう言った。彼が小さいときは、それでやめてくれた。
でも、エスカレートするのは時間の問題だった。だって、準備運動をして、興奮させておいて、本番をしないなんて、やっぱりどこか歪だから……。
むしろ、そこに一線をひくことで、私が私を納得させていたことが歪だったのだ。もしもその一線が崩れたら、この歪な関係をそうだ……と認めざるを得なくなる。それが分かっていたから、拒絶した……。
夕陽は我慢できなくなると、ふいっと立ち去った。それがどういう行為か、私は知りつつも口にはださなかった。
私たちは、ずっと歪だったのだ……。
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