第2話

   朝陽の告白2



 私は小学五年生だった。その日はピアノのレッスンの日だったけれど、先生が急な用事でレッスンがキャンセルとなり、時間よりかなり早く家に帰ってきた。


 玄関に入ると、リビングから人の気配が……でも、すぐに違和感をもった。ナゼなら、喘ぎ声に聞こえたからだ。


 私も足音をしのばせ、そ~っとリビングに向かう。仕切りのドアはガラス張りで、こっそりと覗く。


 夕陽がいた。でも彼は裸で、背後にみえるテレビには、全裸の男女が絡みあう映像があった。


 父親がそういうものをもっている、と知っていた。仕方いとも思っていた。


 それを夕陽が見ている? ……否、彼は背中をむけていた。そしてもう一人の背中がみえた。


 お下げの髪ですぐに気づく。夕陽の幼馴染、久船 水穂――。彼女も裸だった。


 二人はアダルトビデオを流しながら、それと同じ行為をソファーでしていた。小学二年生なのに……。


 しかもソファーにすわらせた水穂に、夕陽がのしかかるようにして腰をつかう様、水穂が受け入れる姿も、それをもう何度も繰り返している……初めてではないことを思わせた。


 アダルトビデオの中も、盛り上がってくる。


 夕陽の腰遣いも速くなってきた。小さいながらも、水穂も喘ぎ声をあげる。


「う……」


 夕陽はイッたようだ。二人とも避妊なんてしていないだろう。でも、そうする必要があるかどうかも不明だった。


「夕君、ちょっと早い~ッ!」


 甘えるような声で、水穂は力の抜けてしまった夕陽の肩を揺さぶる。


 夕陽も求められ、つながったままで窮屈そうに水穂に口づけをする。互いに舌を絡ませ、求め合う濃厚なそれだ。


 ビデオでも第二ラウンドがはじまった。


 夕陽はまた腰を動かす。一度、絶頂を迎えたはずなのに随分と早い復帰……。


 そんなことが大事なんじゃない。幼馴染の二人が、もう一線を越えて……否。もう色々なことを超えてしまっていること。


 小さな身体――。二人は男女のそれとなっていた。


 激しく体をぶつけ合い、迸った情熱は互いに小さな喘ぎ声となり、流れるビデオのそれと交じり合う。


 でも、映像の中のそれはもう関係なかった。二人の耳には、目には、目の前にいる相手しかみえていない。


 ぶつかり合うそれが、互いに駆け上がっていくそれが、絶頂へと到達した。


 二人一緒に、ぎゅっと力を籠めて結びついた後、力が抜けてしまった。


 ソファーの上で互いに抱き合うようにして、崩れるようにその背もたれの下へと消えた。私にはまだアダルトビデオの中で、絡みあう男女の姿しかみえなくなった。


 私はそ~っと、二人に気づかれないように家をでる。


 そのとき、私はどこをどう歩いたか? 憶えていない。それより考えることがいっぱいあり過ぎて、頭の中はぐちゃぐちゃで、脳が活動していたかさえ憶えていない。


 私はピアノレッスンをうけて、家に帰るぐらいの時間になって、もう一度玄関を開けた。


 恐る恐るリビングを覗くと、大きなテレビにはゲームが広がっていた。


「あ、お姉ちゃん、お帰り~」


 ゲームに興じていのでふり返ることもなく、いつも通りの明るい声音で水穂はそう声をかけてくる。


 そこに匂いはのこっていないし、何より痕跡もない。でも、私は知っている。さっきまで、ここには男と女がいた。


 今はゲームをする、ただの子供にもどっているけれど……。


 私はそんな二人の背中を、複雑な気持ちでみつめることしかできなかった。



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