第3話 勇者と姫と聖女様
(本当、神様が言った通りね)
桜子は今、この世界の王の前に堂々と立っている。事前に状況は神から聞いていたし、やるべきことが決まっているのは楽だ。話も早い。
「ああ! 聖女様……よくぞ召喚に応じてくださいました!」
「どうか我々の世界をお救いください!」
王の前で神官や魔法使いが総力を挙げて召喚した桜子は、跪く人々や驚きのあまり顎が外れそうな国王の顔よりも、苦々しそうにこちらを見ているブロンドの少女が気になった。
(あの子か)
今回の諸悪の根源。魔王を作り出した張本人だ。彼女は彼女の目的の為に、王家に伝わる伝説のアーティファクトを使い、こっそりと人々の負の感情を具現化させた。しかもそれを簡単に考えている。自分だけは無事だと思っているのだ。決してそんなことはないのに。
「池崎桜子です。皆様、どうぞよろしく」
堂々と振舞った。緊張から少々顔は引きつったが、元の世界にいた時の自分からは考えられない。
(聖女ごっこだと思えばやれるわね)
心の中で苦笑した。恥ずかしいという気持ちは捨てた。今はただ、目的を果たすために行動すると決めたのだ。
「なんだか私怖い……あの人、本当に聖女? 顔が怖いわ」
「何てことを言うのだエリス!」
父親である王に叱られぶすっとむくれているエリスを、赤髪の青年が呆れ顔で見ている。その場にいる兵士や神官達はギョッとした顔だ。
「異世界の聖女様が召喚に応じてくださったのだぞ! もうお前が聖女の真似事をする必要もない」
エリス姫は返事もせずにその場からいなくなった。
「も、申し訳ありません聖女様!」
「いえ。かまいませんよ」
余裕の笑みを浮かべる桜子を見て、人々は感動した。無礼な態度を怒るでもなく包み込むようなその笑みをみて、やはり彼女は本物の聖女なのだと確信し安心した。
エリス姫は自らを聖女と語っていたのだ。聖女と似た力を使えばしたがそれはごく僅かなもので、実践で使うには程遠い。周囲がいくら諌めても、勇者達と魔王の森に向かうと聞かなかった。
「魔王の力は日に日に大きくなり、どんどんと魔の森が広がりつつあるのです……一刻も早く魔王を倒す必要があるます」
豪華な客室で桜子はすでに神から聞いていた説明を受ける。
魔王の森は瘴気で溢れ、とても人間が住める環境ではない。すでにこの世界の半分はソレに飲み込まれていた。
「こんな素人を連れて行って大丈夫なのか?」
「グレン!」
「俺にはわかる。この聖女は今まで戦ったことなど一度もないだろう。安全な世界で生きてきた甘ちゃんだ」
「グレン!!」
壁に寄りかかっている、グレンと呼ばれた青年が勇者だ。今回の魔王討伐の先陣を切ることになっている。そんなグレンを一生懸命諫めようとしているのは相棒の魔法使いライドだった。
(はぁ~やっぱりプロにはバレるのねぇ)
桜子は感心した。侮られたことはやはり少し腹立たしいとは思ったが、事実はグレンの言った通りだからだ。
「戦闘経験がないことは認めます。ですが足手まといにはなりません。自分の身は自分で守れますので」
少し挑戦的に言い返す。口元は微笑んだまま。
「私の役目はあなた達を魔王の森の瘴気から守ること、巨大な力を持つ魔王の攻撃を防ぐ為に結界を張ること、そしていざという時はあなた達の傷を癒すことです」
「だが……!」
桜子はグレンの言葉を遮ったまま話続ける。
「そしてあなたの役目はその力で魔王を倒すこと。お互い役目を果たしましょう」
そう言ってニコリと笑って見せた。
「……覚悟はあるんだな」
「はい」
グレンは心配だったのだ。突然現れた異世界の少女は、なんの見返りも求めず危険に立ち向かおうとしている。
「心配してくれてありがとう。運命共同体だし、仲良くやりましょう」
「……なっ!」
全く予想もしない答えが返ってきたグレンは顔を赤くした。
『お前と共に戦う勇者は、口は悪いが心根は優しいやつだ。安心して命を預けていい』
神が言うのだからと桜子はあっさり信用した。
『お前と同じく、自分の弱さを隠すための言葉なのだ』
そのセリフは少し余計なことだと思ったが。
「……よろしく頼む」
まだ顔は赤いが、今度はちゃんと向き合いしっかりと桜子の目をみていた。
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