第4話
――「あれがトウモロコシ畑にキャベツ畑です」
不思議なことに、こっちの世界の農作物はほとんど地球と同じ名前が使われていた。
街に何人か獣人がいたけど、カエルの獣人、カンガルーの獣人、ネズミの獣人、ダチョウの獣人と、みんな呼び方が地球と一緒だった。
もしかしたらずっと昔にこの世界に地球から来た人がいて、名前を付けたのかな……。それで農作物も持ってきたとか。
「あ、井戸から水を汲んでるんですね」
「ええ、我々は人間と違って魔法が使えませんから、どうしても原始的な生活になってしまいます」
「水を出すスキルは無いんですか?」
「そんなものありませんよ。魔法というのは自然の力と魔力を使って事象を起こす方法でして、スキルは自分の体力を消耗して肉体の限界を超越する方法です。根本そのものが全く違いますから」
確かに、私の超聴力スキルは肉体の限界を超越してるし、魔法に関してもマジックシールドの次はファイヤーボルトやアクアボルトなど、自然の力を使ったものばかりだった。
「ちなみに、なんだか空き家が目立ちますけど……」
「お恥ずかしい話です。実は少し前にこの近くにワイルドボアが住み着いてしまいまして」
「ワイルドボア?」
「イノシシの魔獣です。魔獣は基本的に凶暴なのですが、ワイルドボアは非常に温厚な性格で、こちらが手を出さない限りは無害です。それでも魔獣は人間を呼び寄せるという迷信を信じている者も多く、半分近くの村民が別の村へ移住しました」
「そうだったんですね」
さっき思いっきり攻撃しちゃったけど大丈夫だろうか。それにしても、そんなに人間を恐れているなんて……。この世界の人間はそんなに凶悪なのだろうか。
「さて、今日はもう日が暮れますから、うちの村に泊まっていってください。空き家はいっぱいありますので。ははは」
ブードンは笑えない廃村ジョークと飛ばすと、彼らなりに頑張ったであろう豪華な食事を提供してくれた。
――夕飯を終え、借りた家のベットで横になると、窓から夜空に二つの月が上り幻想的な光景だった。
耳を澄ますと、都会とは違い森林の中の村はとても静か……ではなかった。
<ホーホー>
<チキチキチキ>
<がさごぞ>
<ざわざわ>
「うーん。うるさくて眠れない……」
超聴覚が装備したままの為、虫とか動物の鳴き声や葉音など周囲の音が気になって寝れない。
「ステータス」
ブゥンと暗闇の中に青白い画面が現れた。
「超聴力を外してっと……」
≪ 超聴力が解除されました≫
「あとは、うーん」
とっさにファイヤーボルトをレベル最大まであげたけど、よく見てみたら派生っていうのかな。ファイヤーボルトのレベル上がったことで、フレアブレードという魔法が一覧に出てきていた。そういえばなんかアナウンスみたいのが流れたような。
「これも最大まで上げちゃおうかな。ポチポチっと」
《フレアブレードがLv10になりました》
《メテオインパクトが解放されました》
「またなんか出たけど、もうポイントが無くなっちゃったよ」
やっぱり良太がいてくれたらなと思う……。良太もこの世界に連れて来れないかな。
窓の外に見える満点の星空を見上げていると、両親の顔が脳裏によぎった。
「どうしよう。お父さんもお母さんも心配してるよね……」
明日はなんとしても草原に行こうと心に決め、瞳を閉じた。
――翌朝、まだ薄暗い朝方にカンカンカンという警鐘の音で飛び起きた。
「びっくりした。なんの音だろう……」
とにかく只事ではないと思い、私は慌てて布団から飛び出しドアを蹴り飛ばすと、家の外へ出た。
「あ! ユノ! いま呼びに行こうとしてたんだ!」
「この音は何?」
「昨日の魔獣……。ワイルドボアがこっちに向かってるらしくて……。どうしようおいらのせいだ」
「え、それを言うなら私は魔法で攻撃したから……」
「違うんだ。ユノと会う前に俺が木の実を取ってたら落ちちゃって、その時に木の下にいたワイルドボアにぶつかって……。あれほど父ちゃんに攻撃するなって言われたのに」
「そうだったんだ……」
「念の為に臭い消しの葉を使ったけど、ちゃんと臭いが消せてなかったんだ。どうしよう。このままだと村が……」
「とりあえずブードンさんに相談するしかないよ」
「そ、そうだね。行こう! 広場だよ!」
ブータと一緒に広場を目指すと、屋根の上でダチョウの獣人が叫んでいた。体は人間なのに首だけ長くてダチョウの頭がついている。
「南南東から何かが来ているぞー!」
何かって、なに……。ワイルドボアじゃないの?
「チョウさんは超視力スキルの持ち主でね。四十メートルくらい先に落ちてる爪楊枝も見つけられるくらい目がいいんだ」
「それはすごいね」
「でも、脳みそが小さいから物忘れが早いのが難点で……」
チョウさんが高台から叫ぶと、広場にいるブードンや村の面々が手お上げて合図を送ったのが見えた。私とブータは急いで広場へ駆け寄ると、みんなの顔から事態の深刻具合を肌で感じた。
「ブードンさんおはようございます。ワイルドボアが接近してるとか」
「ああ、ユノさん。そうなんです……。非常に興奮した状態らしく」
「父ちゃん実は……「やっぱり先に村を出た連中と一緒に、この村は捨てるべきだったんだ!」
髭を生やしたカエルの獣人がブータの発言を遮って怒鳴り散らした。
「カエール爺さんの言う通りだ! ブードン!お前の責任だぞ!」
「そうだ!そうだ!」
獣人たちが騒ぎ立てるとブードンは神妙な顔つきで手を上にあげて、みんなを静かにさせた。
「わかりました。私が時間を稼ぎますから、皆さんは西の川を越えて、ルルリリラの村を目指してください。ワイルドボアは嗅覚スキルを持っているので、臭い消しの葉を撒いて必ず川の中を渡って匂いを落としてください」
みんなは動揺した。時間を稼ぐとはワイルドボアと戦うということだ。ブードンは死ぬ気かもしれない。しかし村人の切り替えは早かった。
「ブードン、お前の覚悟しかと受け取った! そうと決まれば今すぐ全員村を脱出するぞ!」
「よし急ごう! 荷物は最低限だ!」
ブードンの言葉を聞いて、みんな逃げる準備をするのために足早に散っていき、私とブータとブードンだけが残った。
「父ちゃん……」
「ブータ、いいか? 父ちゃんはこの村に残らなきゃいけない。お前はみんなと一緒に逃げるんだ」
「違うんだ! 父ちゃん! ワイルドボアは俺が」
パン!
ブードンがブータの頬を叩き、辺りに乾いた音が響きわたった。
「今は村の一大事だ。お前も俺の息子なら避難誘導して、みんなをルルリリラ村に連れていけ!」
「父ちゃん……わかったよ。でも絶対、父ちゃんもルルリリラ村に来てくれよ!」
「任せろ、お前の父ちゃんだぞ?」
ブータとブードンは拳を合わせると、ブータは脱出の準備のために家へと走った。
「ブードンさん……」
「ユノさん、申し訳ないですがブータを頼みます」
ブードンを私に背を向けると歩き出した。
「あの! ブータは……」
「わかってますよ。あの子がワイルドボアを怒らせたんでしょう」
「知ってたんですが……」
「昨日の夜、寝言で言ってました。木の上から偶然ワイルドボアの上に落ちたと」
「それじゃぁ……」
「それをあの子から聞いても、この結果は何も変わりません。ならば今できることを最優先にやる。それが村長とその息子の役割です。それでは」
そう言い残すと、ブードンはワイルドボアの迫っている村の入り口へ走っていった。
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