1500m走の計測からバトミントンに変更。雨だから。


 女子更衣室でその知らせを聞くと、

クラスメートから高らかな歓声が発せられた。


 折り畳み傘、持ってきたっけ。


 「私、バトミントンもヤダ」

 「バト苦手だったっけ?」

 「当たらないじゃん、あれ」

 

 テニス部で普段からラケットを振るユミにはわからないのだ。

 シャトルがそよそよっと落ちていく様も気に食わない。

しかも、当たってようやくスタートラインの競技だから良くない。


 「私とペア組もうね」


 ニヤッと笑いながら後ろで髪を束ねるユミ。

 私と違って指を通したくなる髪。

この人を二文字で表すなら上品みたいな言葉が似合う。


 「ユミと組んだら私の運動音痴が際立つし・・・」


 大概私は劣っている。


 「運動苦手な方が可愛げあるでしょうに」


 くらっと私の肩を揺すりながらそう言う。」

 そよっと自分の心持ちが良くなることを自覚する。

乗せられている気がして、腹の奥にそれを沈めた。


 「可愛いい人が運動苦手だったら可愛いんでしょ」

 「アヤ、今日は卑屈だねえ」

 「いつもですー」


 室内シューズをぶら下げて更衣室を出る。

憂鬱な体を振り子の慣性使って無理くり前に進める。

そんなニュアンスだった。


 「塾って、ユミが誘ったの?」

 「いや、リクからだった」

 「へえ」


 あいつから裏切りやがったのね。


 「さっきも言ったけど、アヤも来ていいんだよ」


 ユミのやさぐれた声が耳に馴染んだ。

こいつってなんかイケメンなんだよな。

私がその声だったら、どうだったろう。


 ユミを見る。

背が高いから、いつも見上げることになる。

あなたのいろんなものをちょっとずつ分けてほしい。


 「塾ね、考えとく」


 



 ふわっとシャトルが弧を描く。からぶる。


 「やっぱ当たんないっじゃん!」


 遠くでトスを待っているユミに怒鳴った。


 「シャトルよく見て振って!

 そしたら当たるから」


 なるほど。

 シンプルで必要な意味を内包している。


 シャトルをよく見て。

 振る。


 「無理だあ」


 嘆く私の方にユミが駆け寄ってくる。

その駆ける様すら絵になる姿。


 ラケットの持ち方からおかしいと言われ、

二人羽織みたいに補助された。私は重症らしい。


 「腕の力を抜くの。重さで振る感じ」

 「むずい」


 ユミがシャトルを落とす。

介助されながらラケットを振った。


 「うわ、当たった」


 小気味のいい音立ててシャトルはネットを超えた。


 「ナイス〜」

 「教わってるの恥ずかしいよ」


 みんなネット挟んで向かい合ってる。


 「勉強も私が教えてるんだから今更じゃない?」

 「なんか別物じゃん」

 「気にすんなって」


 背中にユミがピッタリくっついてスイング。

面白いくらいにシャトルが飛んでいく。


 「私センスないんだな!」

 「できるできる」


 ひらひらと手を振ってユミは持ち場に戻っていく。

あの人、私の扱いにどうも慣れている。


 「頑張って!」


 ネットの向こう側でユミがラケットを構えている。

私の手にはシャトルとラケットによる振動が手に残っていた。

 そんな気がするだけか。


 ラケットを握り直す。

 シャトルをよく見て。

 振る。


 当たらない。

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