3
1500m走の計測からバトミントンに変更。雨だから。
女子更衣室でその知らせを聞くと、
クラスメートから高らかな歓声が発せられた。
折り畳み傘、持ってきたっけ。
「私、バトミントンもヤダ」
「バト苦手だったっけ?」
「当たらないじゃん、あれ」
テニス部で普段からラケットを振るユミにはわからないのだ。
シャトルがそよそよっと落ちていく様も気に食わない。
しかも、当たってようやくスタートラインの競技だから良くない。
「私とペア組もうね」
ニヤッと笑いながら後ろで髪を束ねるユミ。
私と違って指を通したくなる髪。
この人を二文字で表すなら上品みたいな言葉が似合う。
「ユミと組んだら私の運動音痴が際立つし・・・」
大概私は劣っている。
「運動苦手な方が可愛げあるでしょうに」
くらっと私の肩を揺すりながらそう言う。」
そよっと自分の心持ちが良くなることを自覚する。
乗せられている気がして、腹の奥にそれを沈めた。
「可愛いい人が運動苦手だったら可愛いんでしょ」
「アヤ、今日は卑屈だねえ」
「いつもですー」
室内シューズをぶら下げて更衣室を出る。
憂鬱な体を振り子の慣性使って無理くり前に進める。
そんなニュアンスだった。
「塾って、ユミが誘ったの?」
「いや、リクからだった」
「へえ」
あいつから裏切りやがったのね。
「さっきも言ったけど、アヤも来ていいんだよ」
ユミのやさぐれた声が耳に馴染んだ。
こいつってなんかイケメンなんだよな。
私がその声だったら、どうだったろう。
ユミを見る。
背が高いから、いつも見上げることになる。
あなたのいろんなものをちょっとずつ分けてほしい。
「塾ね、考えとく」
ふわっとシャトルが弧を描く。からぶる。
「やっぱ当たんないっじゃん!」
遠くでトスを待っているユミに怒鳴った。
「シャトルよく見て振って!
そしたら当たるから」
なるほど。
シンプルで必要な意味を内包している。
シャトルをよく見て。
振る。
「無理だあ」
嘆く私の方にユミが駆け寄ってくる。
その駆ける様すら絵になる姿。
ラケットの持ち方からおかしいと言われ、
二人羽織みたいに補助された。私は重症らしい。
「腕の力を抜くの。重さで振る感じ」
「むずい」
ユミがシャトルを落とす。
介助されながらラケットを振った。
「うわ、当たった」
小気味のいい音立ててシャトルはネットを超えた。
「ナイス〜」
「教わってるの恥ずかしいよ」
みんなネット挟んで向かい合ってる。
「勉強も私が教えてるんだから今更じゃない?」
「なんか別物じゃん」
「気にすんなって」
背中にユミがピッタリくっついてスイング。
面白いくらいにシャトルが飛んでいく。
「私センスないんだな!」
「できるできる」
ひらひらと手を振ってユミは持ち場に戻っていく。
あの人、私の扱いにどうも慣れている。
「頑張って!」
ネットの向こう側でユミがラケットを構えている。
私の手にはシャトルとラケットによる振動が手に残っていた。
そんな気がするだけか。
ラケットを握り直す。
シャトルをよく見て。
振る。
当たらない。
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