初CMと開拓者
「このゲームの評価は…まぁ、3.1くらいかな。可もなく不可も無くって感じでファイナルアンサー。デビュー作である事を踏まえて3.5にオマケ。今後の新作に期待、って感じ」
カタカタとキーボードを叩いて、ブログに掲載する文章を作っていく。
内容はとあるゲームの批評。インディーズ・ゲームを開拓するのが俺の趣味。
インディーズ・ゲームとは、インディペンデント・ゲームの略称であり、独立系ゲームとも言われるゲームのこと。極少ない人員と予算で作られていたりするのが特徴で、中には個人が作っているゲームも存在する。配信プラットホームの普及と共に急増し、その市場は拡大し続けてきた。
その良い所は、やはり未知の可能性に溢れる所だろうか。誰でも知っている大手の影響から離れ、これまでにない発想や工夫でユニークなゲームとなっていることも珍しくない。
とはいえ、駄作と呼ぶしかない作品が多いのも事実。正に玉石混交であり、時々“玉”に巡り合った時の感動は筆舌に尽くしがたい。宝探しのようなワクワクと、自分が一番初めに見つけたんだという優越感。目を付けたゲームが後々有名になっていくのを見ると何とも言えない感慨が沸き上がる。
だが――
「退屈、だな」
最近はビビッと来るゲームに巡り合えていない。確かにストーリーや操作性、キャラビジュアルなどが珍しいゲームは存在する。これまでにない新しさが光るゲームだってある。
だけど、何かが足りない。曖昧な欠落が、けれど確かに付き纏っている。
「……そういえば昔、同じようなことがあった気がする」
あれは、そう。俺がインディーズ・ゲームで初めて遊ぶ前の事。
ごく普通に大手のゲームばかりで遊んでいた俺は、いつからか今と同じような退屈さを感じるようになった。それで友達からインディーズ・ゲームを勧められて、直ぐのめり込んで行った。
ふと思う。俺はあの時、なぜ退屈だと感じたのだろう。なぜ今、同じような退屈を感じているのだろう。この倦怠の求めるモノとは一体――
『今のゲームが失った物は此処にある』
――。
その、たった一言が胸に突き刺さった。
聞こえてきた若い女性の言葉に、自分の中の何かが震えた。
『蘇らせよう。あの昔日の日々を。少年の記憶を――初めてゲームに触れた時の感動を』
それはブログ作成のBGMに使っていた動画投稿サイト、その広告のようだった。
急いでブラウザを切り替える。すると、地下道…だろうか? 薄暗い場所を進んでいく4人のキャラクターが映っている。
杖とフードが印象的な白髪の老爺。これは魔法使いなのだろうか?
赤い髪の若い女性は、何やら身の丈ほど巨大なハサミを両手で持っている。武器なだと思われるが、随分と細かい装飾で西洋のアンティークを想起させる。
次に性別不詳の若者。その者が構える純白の猟銃が薄暗い空間で怪しく光っている。
最後に、幼い少年が彼らの前を駆けていく。時々振り返って笑いながら手を大きく振る姿は、セリフがなくても“早くおいでよ”と言っているのが伝わる。
奇妙なのは、彼らの心臓部分にはポッカリと穴が開いており、そこに蠟燭のような火が灯っていることだ。
『所持金0、レベル1から始めるRPG』
4人の関係性は分からない。性別も年齢もバラバラな彼らは、しかし同じ方向へ向かって進んで行く。
自分たちの胸の火で暗闇を照らしながら。一歩一歩手探りで進んで行く。
やがて。
『Candle Connect Online』
ゲームのタイトルが映し出される。生憎と見聞きしたことはない。
すると、そのタイミングで一番前を突き進んでいた少年が何かを指さす。
少年の顔は満面の笑み。例えるなら、ランドセルを貰った子供の笑顔。ちょっぴりの不安と、それを凌駕して余りあるドキドキとワクワク。キラキラ輝く目に映るのは――
『必要なのは唯一つ。冒険を求める心だけ』
『2030年、2月2日発売』
『対応機種 KAIBYAKU Ⅲ / 新创4000 / XW91 』
『発売元 イレブンヘッド』
『対象年齢 CELO:A(全年齢対象)』
瞬間。闇の世界があふれ出た光に包まれる。そのまま白く染まった画面にゲームの各種情報が表示されて広告は終了した。
「…………っ! イレブンヘッドとCandle Connect Online、だったな」
どちらも聞いたことのない名前。急いでブラウザを開いて検索していく。
なんだか熱に浮かされたような心地だった。後になって振り返ってみても、あのCMの何に自分が惹かれたのかは良く分からない。
CMの出来は精々並みか、中の下といったところだった。ナレーションは聞き取りやすい奇麗な声でこそあったが、まるで聞いたことのない無名の声。有名声優を起用せずに新人声優を使ったか……或いは社内の人間に喋らせただけなのかもしれない。
内容だって十分とは言えない。ゲームとして重要な戦闘シーンも何もなく、ただ薄暗い場所を4人の人物が歩いていただけ。
だけど。そのCMの“何か”に無性に惹かれた。あの少年の視線の先にあったものが気になる。そこに自分が求める答えが、退屈を吹き飛ばす解があるような謎の確信があるのだ。
「……あった。イレブンヘッド」
過去作なし。何かのゲーム開発に携わった実績もなさそうだ。大手ゲーム会社から独立した人物がメンバーということも……ないようだ。
正に、典型的なインディーズ。あのCMは限られた予算で作れる精一杯のモノだったのだろう。
だけど……。
「今のゲームが失った物がある、か」
随分と大言壮語を吐く。この地球に溢れる数多のゲーム全てに喧嘩を売るつもりなのだろうか。
ふと、自然と口角が上がっている事に気付く。
とはいえ。これは嘲笑ではない、ただただ純粋な好奇心と期待の表れだ。
発売予定は2か月後。忘れずに公式SNSをフォローして更新通知をオンにしておく。
「あぁ、くそっ。ワクワクさせてくれるじゃねぇか…っ!」
Candle Connect Online 夢泉 創字 @tomoe2222
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