最終決戦 ツクシと神楽夜

 いよいよ作戦決行だ。

 まずリュウゾウさんがマギャリオンの左側から襲い掛かり、間髪入れずに親父が右側から攻め立てる。

 異常に戦闘慣れしている二人を同時に捌くことはいくらマギャリオンでも難しいらしく、とりあえずリュウゾウさんに狙いを絞ったようだ。

 ここで、踏み込んでおく。

 俺は恐怖を踏み台にして地面を渾身の力で蹴ると、ロケットスタートの要領でマギャリオンに向かって行った。

 すると、マギャリオンがリュウゾウさんに向けて思い切り斧を振り抜く。

 それをギリギリで躱したリュウゾウさんは、頭部に狙いを定めた。

 しかしその行動は予測の範囲内だったらしく、マギャリオンは握り直した斧の柄をリュウゾウさんの腹めがけて、思い切り撃ち込んだ。

 直後。骨が砕けたような鈍い音が響き、リュウゾウさんの身体が宙に舞う。

 まずい!

 吹っ飛ばされたリュウゾウさんは俺の真横を通り、脇にあるフェンスを破り空中に投げ出された。

 くそ! いくらリュウゾウさんといえど、やはりあの消耗具合では無謀だったか!

 ちくしょう、作戦は失敗だ。

 そしてこのままじゃあ、リュウゾウさんが頭から落ちちまう!


「神楽夜! リュウゾウさんを頼む!」


 俺は作戦全体のフォローを頼んでいた神楽夜に大声で呼びかけた。


「承知した!」


 神楽夜はその言葉通り、空中にいるリュウゾウさんをしっかりと掴んだ。

 さすがに空中に足場はないので、そのまま校舎の側面を一蹴りして跳び上がる。だが位置的にこちらに戻ってくることは叶わず、そのままグラウンドに降りるようだ。

 神楽夜は俺とライチを抱えてジャンプした時も、着地時にダメージを受けていなかった。おそらくリュウゾウさんを抱えた状態でも、上手く着地出来るだろう。

 これでとりあえずリュウゾウさんは大丈夫だ。

 ただし残ったのが俺と親父だけだという状況は、もちろん最悪だがな。

 さて、ここからどうするか。

 さすがに詰みを意識せざるを得ない。


「ありがとうございます、月兎族さん。そして後は任せましたよ。シキ、ツクシさん」


 視界から消える寸前、少し籠った声でそう言ったリュウゾウさん。

 気のせいか?

 一瞬見えたその口元には、なにかが咥えられていたような……。

 慌ててマギャリオンを見ると、左角が欠けた状態で親父と睨み合っている。

 おいおい、マジかよ!

 今の一瞬の攻防で喰い千切ったってのか⁉


「やるじゃねぇかリュウゾウ! こっちも恰好いいところ見せなきゃ、息子に威厳が示せんな! ふんっ!」


 パキン、と小気味いい音が鳴ったかと思うと、親父が持っていた大剣で右側の角を叩き割っていた。

 なんであんなデカい得物でそんな繊細な動きが可能なんだ、こいつ本当に人間かよ!

 しかしさすがにそんな大振りの後隙をマギャリオンが見逃すはずもなく、親父も校舎側にぶっ飛ばされた。

 だが、マギャリオンが自由に動けたのはここまで。


「グォオオオオオ!」


 両角を失った魔王は、悍ましい咆哮をあげながら膝をつく。

 さっき身体の方に重傷を負った時は、平然としていたのに。

 よし、ここまでは作戦通り。

 って、本当かよ。信じられねぇ。二人共ラスボス相手に一発であっさり条件をクリア―しちまいやがった。

 手際良すぎだ、あとは俺だけってか。

 手汗で握っている剣が落ちてしまうんじゃないかと思うくらいだ。

 ただし、これは緊張からきているだけじゃあない。

 実の家族に対して実感が湧かないと言ったが、敵討ちをする責務はあるだろう。

 故郷を奪い、ツララを苦しめ、仲間達を傷付け。やりたい放題やってくれたな。

 これで、終わりにしてやる!

 俺は力の源を同時に失い、項垂れてふらつくマギャリオンめがけて、鍔で斬る勢いで思い切り踏み込んだ!

 そしてその剣は見事に、マギャリオンの脇腹に命中した。


 ――が、そこからピクリとも動かない!


 なぜだ、親父達は角ありの状態でもこいつにダメージを与えていたのに。俺は角なしのこいつに一太刀すら通せないのかよ!

 まずい。両角が落ちてから既に二、三秒経っちまった。

 全員の活躍が、努力が。全部無駄になっちまう!

 俺はツララ戦の火傷でほぼ機能していない左手も添えて使ってみるが、やはり剣は動かない。マギャリオンはそんな俺を見て、不敵な笑みを浮かべている。


「ふはははは! ゲート王シキも、サラマンダーの長リュウゾウも落ちぶれたものだな。自分の命運を、剣の力に頼りっぱなしのこんな未覚醒の座敷童に賭けるとは!」


 ちくしょう、もう喋れるまで回復しているのか。ていうかこいつ、喋れたのか。


 うるせぇ、うるせぇんだよ!

 どうしてぶった切れねぇんだ、時間がねぇのに!

 おそらくあと数秒でこいつは回復して動き出し、俺を戦闘不能にするだろう。

 駄目だ、この数秒が命取りになる。

 なんでもいい、何かねぇのか!

 この際俺はもうどうなってもいい。だから頼むよ、なんでもいいからあと一押しを!



 そんな俺の目の前に、突然奇跡が舞い降りた。

 いや、違う。

 これは必然なんだろう。

 最後の戦いにこいつだけが参加出来る状態だったのも、それは偶然ではなく最早俺とこいつの絆。

 はは。白ウサギに導かれたアリスはこんな気持ちだったのかな。

 それならもう、遠慮なく頼らせてもらうぜ!


「頼む、神楽夜ぁああああああ!」

「任せよ! ツクシ!」


 マギャリオンの背後から跳び上がって現れた神楽夜は、大きく跳躍したその勢いのまま、俺の剣を側面から思いきり蹴り飛ばした!


「これで終わりだ! あばよ、魔王マギャリオン!」


 俺の手に伝わったのは、ズブズブと沈む肉の感触。

 そしてそのまま、マギャリオンの胴は真っ二つに両断された。


「――馬鹿な! この儂が、まさか座敷童如きに敗れるとは!」

「座敷童如きに、じゃねぇよ。人間、座敷童、月兎、キョンシー、サラマンダー、それにセイレーン。お前は俺達、異世界連合に負けたんだ!」

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