最終決戦 戦艦に乗った気でいろよ!
マギャリオンは体勢を立て直すと、自ら斧を振るいリュウゾウさんに襲い掛かる。
「リュウゾウ! 気張れよ!」
「相変わらず無茶を言いますね、シキ。死ななかったら褒めてくださいよ」
弱気な発言とは真逆に、尻尾や牙を巧みに使い、斧の直撃を避け続けるリュウゾウさん。
攻撃面は爆発と操作の能力が脅威だとばかり思っていたが、奴は再生が可能。
よくよく考えればあの巨体にあのパワーで被弾を恐れず突っ込んでくるとなれば、本体の攻撃が一番の脅威だ。
まずリュウゾウさんを狙っているのも定石。俺がマギャリオンでも最初に潰すのは親父かリュウゾウさんだ、次いで神楽夜。
無能力の俺なんて、一人にすればいつでも連れ去るなりなんでも出来る雑魚だろうしな。
とりあえず、リュウゾウさんの援護に――
向かおうとした瞬間、周囲のゾンビ魔族が起き上がり、虚ろな視線をこちらに向ける。
くそ、またこれかよ!
しばらくしてなんとかゾンビ魔族を捌き終えた頃、マギャリオン本体は親父にターゲットを移す。
「だあぁ、相性的にパワー系はきついんだよ! ツクシ! 加勢にきたくせにさっきからなんの役にも立ってねぇぞ。お前は命まで奪えないという性質上狙われにくいんだから、せめてさっさと突破口を考えやがれ!」
うるせぇな、言われなくても考えてるっつうの! ていうか俺は軍師でもなんでもねぇぞ!
さっきみたいに常に本体にダメージを与えられれば、再生に力を割かせられるんだろうが。俺はツララ戦で、神楽夜は巨大山羊頭連戦で、親父とリュウゾウさんはマギャリオンと取り巻き戦で。生憎こっちは全員満身創痍だ。
艶々テカテカのマギャリオンにそう何度も致命傷を負わせ続ける事は現実的じゃあないだろう。
それに仮にそれが可能だとしても、単なる時間稼ぎにしかならず討伐には至らない。
色々考えているうちに、視界の端にあったマギャリオンの角が赤く発光する。
うぉ! 今度は爆発の方か! しかも俺が的!
間一髪で受け身を取り、それを躱す。だが咄嗟に避けたので痛めている左を下にしちまった。焼けるような激痛が俺を襲う。
「ぐっ!」
ともあれ危なかった。
しかし一発目の時から疑問に思っていたんだがこれ、普通に直撃したら死なねぇか?
避けると思って撃ってきているんだろうか、しかし俺は角の発光タイミングを見落としたら絶対避けきれない自信があるぞ。そうだとすれば俺を買いかぶり過ぎだ。
せめてもの救いは、爆発と操作の能力を同時に使ってこいない点か。
ゾンビ魔族の相手をしながら角の発光を見る余裕なんて、絶対にないからな。
……いや、なぜだ?
そういえばあいつは、どうしてそれを実行しないんだ?
死んじまったらまずい俺はまだしも、他の三人に対してはもの凄く有効な手段だと思うんだが。
――まさか。
そうか。再生の力を使っている時、明らかに他の能力を使用し辛くなっていた。ツララが両方同時使用していたイメージがあり先入観を持っていただけで、爆発と操作の力は、同時には使えないんじゃないか?
たしかツララの時も、召喚し終わった山羊頭は動いていたが、召喚と同時に爆発を使ってはいなかった気がする。思えばツララも巨大山羊頭を召喚する時は、その一つの能力を使用するのに結構な時間を要していた。
間違いない。
どう考えてもやれるならとっくにやっているはずだ。
つまり奴は、俺達四人を相手にしながら能力を同時発動するほど器用なことは出来ない。相当有益な情報に気付いたのではと、一瞬かなり高揚した。
だがよく考えればそれが分かったところで、残念ながら特に状況は好転しないだろう。
なぜなら消耗戦にすれば勝ちが見えている向こうからして、それは弱点になりえないからだ。自分が傷つけば回復の能力を優先するに決まっている。
考えなければいけないのはあくまで、マギャリオン本体を討つ方法。
俺は戦闘を続けながら、更に必死で頭を回す。
なんとかこの気付き、同時に能力が使えないという点を利用出来ないものか。
同時に、同時。
……あ!
深く考えていたわけではなかったが、ツララを倒したあの時。
ずっと出口の見えなかった俺の思考に、一筋の光が射した。
「このままじゃと潰されるぞ! ツクシ、なにか良い方法は思いついたかや⁉」
「もう少しだけ時間を稼いでくれ! 神楽夜、親父、リュウゾウさん!」
「これ以上はさすがに厳しくなるぞ、策があるならとっとと言いやがれ!」
「シキ、ツクシさんは策がないと言っているのではなく、時間を稼いでくれと言ったのです。信じましょう、私もあと少しなら持ちそうです」
三人はもう限界近いはずなのに、さっきから俺への攻撃が最小限にすむよう立ち回ってくれている。
これに応えられなきゃ、ここに居る意味がねぇ。
奴の魔力の源はあの角のはず。
ゾンビ魔族やツララも、全員が角を折られることで戦意喪失しているんだから間違いない。マギャリオンもいかに強力であろうと魔族は魔族。例外ではなないはずだ。
ただし奴の場合、その角すらも再生する。
「親父、角を落としてから再生するまでの時間はどのくらいだ?」
「はぁ⁉ いちいち数えてねぇよ、ただ十秒もかかってなかったと思うぜ」
なるほど、身体と再生時間は同じ。
それならおそらく、理論上はいける。
ただしそれまでの段階が鬼難易度過ぎるうえに、一人でも失敗すれば水の泡になっちまう。しかも俺の力で下ごしらえは不可能だ、その役は親父とリュウゾウさんに頼むしかない。
そうなると消去法で、成功するかの命運は俺にかかる。
でも、最早これ以外方法が思い当たらない。
これに賭けるしか、道はねぇ!
「親父、リュウゾウさん。二人で出来るだけ間隔を空けずマギャリオンの両角を落としてくれ。神楽夜はそのフォローに、そして俺は角が再生するまでの間に奴を斬る」
俺の発言に最初に反応を示したのは、三人のうち誰でもなくマギャリオンだった。
こちらがどんな攻撃をしようと、自身の身体が千切れようと。顔色一つ変えなかった魔王が、一瞬だが虫けらレベルであるはずのこっちに目を向けたのを俺は見逃さなかった。しかしそれは本当に一瞬で、その後出来るものならやってみろと言わんばかりに手を拱いた。
後者は圧倒的な力に付随する自信からの行動だろうが、前者の反応は反射的なはずだ。
つまり、この策が実現可能なら通じるということを意味している。
あくまで実現可能なら、だがな。
「無茶を言ってくれるじゃねぇか。この消耗具合でまたあいつの角を落とせってか。それもほぼ同時になんて器用な方法で」
分かってる、ぶっ飛んだ要求だってことは分かってるよ。でも悠長に他の作戦を考える時間なんてもうないだろう。そもそも他に方法があるのかって話だしな。
ついでに言えば一発勝負だ。今が次回よりベストコンディション。
このダメージでも、疲弊でも、この一回が一番成功する可能性が高いんだ。
そしてそれでも、その可能性は限りなく低い。
「ふふ、かなりのギャンブルですね。ただ作戦としては実におもしろい、たしかに能力使用の源である両角の再生中に致命傷を負わせられれば、供給が追い付かない可能性はある。試す価値は充分ですね。分かりました、私も全身全霊で挑ませていただきます」
「妾は常に主を信頼しておる。任せよ、大船に乗ったつもりでな。ただ腰が引けておるぞ、ツクシよ」
「うるせぇ、余分なところに気付きやがって」
そりゃあ俺だって死ぬほど怖ぇよ。
失敗すれば俺だけじゃすまない、四人全員の命が賭かった作戦を提案した張本人なんだからな。いや、四人だけではすまないか。
しかも最後の成否は全て俺にかかるんだぞ、これでリラックスしてたらそれはもうそういう能力者だろう。
だが目には目を、歯には歯をだ。
死ぬほど怖ぇ時は死ぬほど強がって、自分を奮い立たせるしかない。
「そっちこそ、戦艦に乗った気でいろよ!」
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