来訪者

 あの後もう十回ほどリュウカに俺が座敷童かどうかを確認したが、やはり俺は座敷童だった。さすがにもう事実は覆らないだろう。

 俺は諦めてせめてもの武器になりそうなもの。つまり各異世界が俺を狙う理由について、掘り下げて聞いておくことにした。


「俺があちこちから狙われる理由は、俺の能力で各々の世界を豊かにしたいからか?」

「そうだ。けど、豊かにしたいなんてレベルの話じゃない。三々波羅ツクシが居ればその世界は繁栄が約束されるんだ。つまり、天界てんかいや魔界に侵攻される恐れもなくなる」


 息を吐くようにまた新たな異世界の名前が登場したが、口振りからして欲しいものは奪う魔界的な立ち位置の世界なんだろう。


「侵攻される恐れがなくなるって、どういう原理だ? 戦闘能力が高すぎて怯むってことはなさそうだし、座敷童にはある条件下でなら発動するチート能力でもあるのか?」


 もしかして俺にはまだ隠された能力があるのではないかと、期待を込めてリュウカに問いかける。


「オレも詳しくは知らない。ただ遥か昔に一度、天界が座敷童を有している妖界へ侵攻するため先遣隊を送った事があったんだが、ことごとく結界の狭間に呑まれたらしい。結界にヒビが入る確率なんて数百年に一度レベルに低いうえ、中には大天使クラスも居たって話だ。そもそも普通その日に限ってそんなことは起こらないし、起きても大天使クラスなら対処が出来るはず。なのに呑まれた、それが立て続けに六回。座敷童の力を証明するには充分過ぎる結果だろ」


 分からない単語も混じっているのでいまいちピンとこないが、ようするにこの世界で言えば攻めこもうとしたその日に六連続大地震が起きたって感じの例えか?

 だとすれば事象や運、確率すら操る能力ってことになる。腕力が強かったり異様に頑丈だったり戦闘向きの能力を望んでいたが、もしかしてある意味最強かもしれないんじゃないか。


「で、今現在俺はまだ座敷童の力を発揮出来ていないよな? 普通に魔界が攻めてきているわけだし」

「うん、その通りだ」

「それならさっきの共鳴、俺を覚醒させる方が手っ取り早くないか? それとも既に侵攻されている場合、効果が及ばないとか能力に制約があったりするのか?」

「そんな制約はないと思う。結論から言えば、しなかったんじゃなくて出来なかったんだ。共鳴は同じ世界の住人同士でないと成立しないから」


 なるほど、リュウカとスイカは同じ幻獣界の血を引いているからこそ共鳴が可能だったわけか。

 たしかによく考えれば予想はある程度容易だった。

 リュウカは俺達に協力的なので、俺の力を覚醒させることでマギャリオンを追い払えるなら迷わずその選択肢をとるはずだからだ。

 なのにそれをしなかったのは、単純に出来ないから。


「それなら俺と同じ世界、妖界だっけか? 急いでそこの住人をこの世界に呼び寄せるしかないんだな」

「それも無理だ。三々波羅ツクシの故郷、妖界は既に魔界の進行により滅びた世界だから」


 なに? ……俺の故郷が、既に滅びているだって⁉ なんてことだ! 魔界、絶対に許せねぇ!

 ――って、そうはならないな。物心ついた頃から俺にとっての家族は今の家族だし、全く実感がわかない。

 ただ、物理的に困る事は分かった。俺は覚醒不可能な座敷童ってことになるからな。なんてこった、結局役立たずのままかよ。


「しかしどうして周りを幸福にするはずの俺が居るのに、妖界は滅びたんだ?」

「覚醒座敷童の不在。座敷童は妖界でも突然変異でしか生まれないもの凄く希少な種族、その確率は千年に一と言われるくらいな。対して妖界の平均寿命は五百歳。つまり妖界唯一の生き残りである三々波羅ツクシが座敷童ってのは、相当奇跡的な確率なんだ」

「え、俺ってそんな長寿で希少種なのかよ」


 たしか幻獣界でも儀式は五歳になってからだと言っていたな。

 つまり座敷童不在の妖界に俺は既に生まれていたが、まだ力の覚醒に耐えられるほどの年齢ではなかった。それなら当時妖界を襲った魔界は、座敷童の能力が発動していない時期を計算にいれたうえで襲撃を目論んだのか。

 しかしそうなると新たな疑問が生まれる。


「どうして皆、今になって未覚醒の座敷童を欲しがるんだ? 妖界は既に滅んでいるんだろ、もう同種族の居ない俺が覚醒することはないんじゃないのか?」


 魔界側が当時なぜ俺を取り逃がしたのか、俺が目的ならなぜ共鳴出来る相手を残さなかったのかは不明だが、聞いている情報からすると現状はそうなっているはずだ。


「あぁ、その通りだったんだが最近になって状況が一変した。獣人界に、二万年に一度姿を見せるといわれるウェイカーが現れた。いや、現れたというかそれまでウェイカーであることを隠していたといったほうが正しいか。たった五百年しか生きないお前とウェイカーの出現が重なるとは誰も予想していなかったため、今まで誰もお前に興味を示さなかったんだ」

「なんだ、そのウェイカーってのは?」


 次から次へと新たな単語が出現するので、理解するのに時間がかかるな。

 しばらく間を置いたが返答がないためリュウカの方を向くと、オレンジ色に発光する扉と臨戦態勢のリュウカが視界に入った。

 ――は?

 なんだこれは、一体いつから出現していた⁉

 それは山羊頭が出てきた魔法陣に似ているが、それとは異なりはっきりと扉の形をしている。

 そしてその扉は奥から手前に向けて徐々に開きかけていた。

 俺もリュウカに倣い、迷わず臨戦態勢に入る。

 まずいな。光の色や構造こそ違うが、魔界からの刺客の可能性が高い。

 横にいるリュウカも俺と同じ考えに至ったらしく、牙を剥きだしにして大きく息を吸い込んだ。

 しかし直後、その中から姿を現したのは、予想だにしない人物だった。

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