北斗のお誘い④

 美波は不思議に思って、そちらを見て、どきっとしてしまった。

 自分の髪に触れていたのは、北斗の手だったのだから。

 美波の視線よりずっと高い位置から、手を伸ばして、頭をぽんぽんとなでてくれる。

 美波は目を丸くしてしまった。

 こんなふうに触れられるなんて、小さい頃以来ではないだろうか。

 どきっと心臓が高鳴った。

「はいはい、そうだといいな」

 なのに北斗はいたずらっぽい目で、からかうようなことを言う。

 それに、美波の顔は、かっと熱くなってしまった。

 からかわれたのだ。

 なのに自分は、ちょっと触れられたくらいでどきどきしてしまって。

 北斗の思い通りになってしまったのではないか。

「か、からかわないでよ!」

 無性に恥ずかしい。美波は必要以上に、水の勢いを強くして、コップから洗剤の泡を流した。

 コップはすぐに綺麗になって、北斗も美波の頭から離れた手でふきんを持って、ていねいに拭いてくれたけれど。

 何故か、顔が熱いのと、胸がどきどきいうのは、なかなか収まってくれなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る