北斗のお誘い②

 確かにケーキはほぼ生ものだから送るのは難しい。

 代わりに焼き菓子ということだろう。

 きっとローカルなお店なんだろうな、と美波は思った。

 チェーン店とか、有名なお店とかなら、通販で取り寄せられるだろうから。

 でもローカルなお店、住宅地の中にある小さなお店のようなところのお菓子は、なんだか優しい味がして、美波も好きだった。

「それを買いに行くんだけど、お前、一緒に来ないか」

 北斗の話は、きっとこれが本題だった。

 一緒に?

 別に美波が行くこともないだろう。

 小学校は違っても、中学校は同じなのだから、そう遠くではない。北斗一人で行けないはずがないのだ。電車で2、3駅なのだから。

 美波が『よくわからない』という顔をしたからだろう、北斗は顔をしかめた。ごくっと勢いよくお茶をあおる。

「ほら、お前、前に言ってただろ。俺の住んでたとこがどんなとこかなぁ、とか」

「あっ……、そうだったね」

 美波は今度、おどろいてしまった。

 そうだ、北斗に再会したとき、確かそんな話をした。

 でもそんなもの、ただの雑談だったのだ。

 なのに北斗は、覚えてくれていた、のだろうか?

「ったく、忘れてたのかよ」

 北斗はますます顔をしかめた。

 もそれは、なんだか照れたような、そして照れたのを隠したいような、そんな顔であった。

「そんなら誘わなくて良かったな。忘れてた程度のことなら……」

 おまけにその通りの、なんだかすねたような言葉と声になってしまうので、美波は慌てた。

 せっかく嬉しいお誘いをしてくれたのに。

 自分の反応を後悔する。なのであわてて手を胸の前で横に振った。

「わ、わー! ごめん! 忘れてないよ! 行きたい!」

「嘘くせぇ」

 北斗は、じとっとした目をしたけれど、とにかくそれで話は決まった。

「じゃ、撮影は二時過ぎくらいに終わるから。スタジオまで来てくれるか」

「わかった!」

 一回、家に帰っていては、帰りが遅くなってしまうだろう。それに、スタジオのほうが目的地に近いそうだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る