北斗のお誘い①

「明日、撮影に行くんだけど、そのあと時間あるか」

 ある金曜日、家に帰ってから北斗がそう聞いてきた。

 美波はお風呂から上がって、冷蔵庫から牛乳を取り出しているところだったのだけど、どきっとする。

 時間ある、なんて言葉の響きに意識してしまう。

「え、土曜日ってことだよね。うん、部活も用事もないし、空いてるよ」

 美波のその返事に、北斗は満足したらしい。「そうか」と言ってくれた。

「実は、母さんが日本から送ってほしいもんがあるってことで、買い物に行かないとなんだけど……」

 美波が牛乳をコップについで、リビングでテーブルに向き合ってついてから、北斗は説明してくれた。

 北斗のお母さん。

 今、海外出張に行っている、美波も知っているひと。

 海外では日本のものは手に入れにくい。手に入らないような食べ物やなんかもあるそうだ。

 それをたまに、北斗や、おじいさんおばあさんから送っているのを、美波は知っていた。

「大体のものは美波のおばさんが買っておいてくれて、揃ったんだけど」

 北斗も自分でついできたお茶を飲みながら、美波のお母さんが用意してくれたものを挙げていった。美波は、うんうんとそれを聞いた。

「ただ、俺が元々住んでた街で、母さんが好きなケーキ屋があって、そこの焼き菓子が欲しいらしくて」

「うん」

 焼き菓子。クッキーやマドレーヌ、パウンドケーキとか、そういうものだろう。

「本当はケーキが食いたいらしいんだがな、生ものは国際便ではなかなか送れないから……」

「そうだね、焼き菓子なら常温でいいし、日持ちもするもんね」


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