北斗の撮影会③

「お疲れ様でしたー」

 撮影は一時間ほどで終わった。カメラマン、マネージャー、そして北斗がそのあいさつで終わりを告げる。

 見学していた女子たちから、パチパチと大きな拍手が上がった。

「みんな、今日は見に来てくれてありがとう」

 北斗がスタジオから一歩、踏み出してお礼を言う。にこっと微笑んで。

 もう撮影は終わっているのだから、今は遠慮なく、きゃあっと大きな歓声が女子たちから上がる。

「はい、では今日、来ていただいたお礼に、北斗くんのチェキを一枚ずつプレゼントします。北斗くんから渡してもらいましょうか」

 女性のマネージャーが、何枚かの写真を持ってやってきた。女子たちからまた歓声が上がった。

 それはそうだ、北斗から直接渡してもらえるというのだから。

 一列に並んだ女子たちが、北斗から一枚ずつチェキを渡されていった。

「あ、ありがとうございますっ!」

「ず、ずっとファンなんです!」

 渡されるとき、ひとことくらいであるが、北斗に話しかけられる。みんな、緊張した様子で、でも顔を赤くして嬉しそうに、北斗にひとことをかけていた。

 北斗はその全部ににこやかに、「こちらこそありがとう」とか、「マジで? ありがとう」とか、返事をしていた。

 美波もそれに並んでいたけれど、どきどきして仕方がない。

 北斗はどういう反応をしてくれるだろう。

 だって、自分は確かに見学に参加していたけれど、実はただの観客であるだけではないのだ。

 実は……。

「じゃ、次の子……」

 ついに美波の順番が来た。北斗の隣にいたマネージャーがうながしてくれる。

 美波はどきどきしながら、北斗の前に立つ。

 北斗は……、にこっと笑ってくれた。

 美波は、あれ、と思う。この顔はなんだかいつもと違うように感じてしまって。

「はい、これ」

 でも目の前では、北斗がその笑顔のままで、チェキを差し出してくれている。

 美波は慌てて、手を出してそれを受け取った。

「あ、ありがとう! あっ、違……、ありがとうございますっ」

 つい『いつも』のように返事をしてしまって、すぐに言い直した。

 言い間違えたことに、ひやっとする。北斗に怒られてしまうだろうか。

 そのとおり、北斗はちょっとだけ目を細くした。それは、むっとした顔だと美波にはわかってしまう。

 表にはわからないだろうけれど。こんな小さな変化でわかるものか。

 でもそれは一瞬のこと。北斗はすぐ、みんなに浮かべていたような笑顔を浮かべて、もうひとこと言ってくれた。

「こちらこそ。『ありがとう』な」

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