3話

 翌日。

 昨日よりは遅く起きる。

 かすかに階下から音がすることから、セイとメイは起きているようだ。

 寝ているユウナの体を揺する。

「起きろー」

「うん……まだ寝るー」

「多分そろそろご飯だぞ」

「……寝る」

 そんなに気持ちいいのか。困ったな。

 仕方ないので、起こすのを諦める。昔からこういう時のユウナは、自然に起きるのを待つしかない。

 鏡で身だしなみを確認すると、頭頂部の髪がはねていた。

 降りたら水でもつけるか。

「おはようウィル」

「おはようセイ。それに師匠も」

「ああ、おはよう。そろそろ朝食ができるぞ」

 パンの焼ける匂いがかすかにする。

 俺は食卓につく前に、洗面所で髪のはねを直す。

 戻る頃には、机に皿が並べられている。

「ユウナは?」

「まだ寝ています。自力で起きるのを待つしかないです」

「ウィルが言うならそうなんだろう」

 師匠はさらりと流し、朝食がすぐにでも食べられるよう準備を完了する。

「ウィル、明日はもっと早く起きろよ。朝練するぞ」

「分かった」

「いつのまにか、ウィルがセイに敬語を使っていないが、何かあったのか?」

「この人が、年の差が二歳しかないから、敬語はいいって」

 師匠が大爆笑する。

「セイ、それはいい加減にもほどがあるだろ」

「「あなたがそれを言いますか」」

「手厳しい」

 一瞬にしてしゅんと萎む。

 そんな会話をしていると、ユウナが降りてくる。

 挨拶を交わした後、四人で朝食を食べる。メニューは昨日と一緒だ。

「じゃあ、今日も昨日と同じ流れで訓練をしよう」

「はーい」

 と、言うことは午前は講義だ。

 今日はどんな内容だろうか。

 少しワクワクしている自分がいる。

 そして、午前九時。第二回目の講義が始まった。

 今日は魔法の属性についての話だ。炎系、水系などなどについてだ。

 実践はなく、座学のみ。

 加えて、魔法史についての解説があった。魔力の発見や魔法の発明、大衆への広がり等々。複雑な話になるのでここでは割愛させてもらう。

 なんやかんやで、昼食も終わり、午後の訓練へとシフトする。

「筋トレか」

「嫌か?」

「そう言うわけじゃない。呟いてみただけ」

 家の外に出ようとして、師匠に呼び止められる。

「あ、ウィル。家にいてくれないか」

「何かするんですか?」

「ああ。ユウナはセイと筋トレしていてくれ。動けない魔法使いはダメだぞ」

 ユウナの顔に不満の色が僅かに出る。

 好きじゃないもんな、運動。

 心の中で頑張れ、と言っておく。

「それで、何をするんですか?」

 二人が外に出たので、師匠に問う。

「昨日さ、魔力が無いって言ってただろ。理由を調べたくて」

「意味があるんですか。今まで問題はなかったですけど」

「魔法使いとして興味があるのもそうなんだが、ウィルの体が不安なんだ。長年生きているが、こんな事例は初めてで、何が起きるかわからない」

 師匠として弟子の心配をしてくれているのだろう。それに保護者としても。

「分かりました。と言っても何をどうやって調べるんですか?」

「そうだな。魔力の代わりとなっているものが何なのか。それを調べたい」

「代わり、ですか」

「ああ。人間、つまり一つの生命体である以上、魔力がなければ死ぬ。しかしウィルは生きている。よって魔力に代わるものがあると考えるのは妥当だろう」

「なるほど」

 二階に行こう、と彼女に促され、俺たちの自室とは反対に位置する部屋に入る。

 一面本棚だ。色とりどりの背表紙の本がぎっしり詰まっている。みな分厚い。

 部屋の奥には窓と机。机上には本と紙、羽ペンが置いてある。

「そこに座って」

 部屋の中央に位置する椅子に座る。

 この部屋には本だけでなく、さまざまな魔道具が置いてある。

 魔道具とは、魔力を流し込むことで、刻印が反応し、色々な効果を及ぼすものだ。例えば光を発したり、火がつく魔道具などがある。

「じゃあ、今から調べていくぞ」

 師匠の目が淡く紫色に光る。

 同時に手に持った紙に、メモをしていく。

「やっぱり、魔力はゼロだな」

 師匠は机の上にある小瓶を一つ手に取る。

「これを飲んでくれ」

 紫色の液体が瓶の半分ほど入っている。厳重に蓋がされている。

「これは?」

「魔力ポーションだ。飲んでみてくれ」

「……嫌いなんですけどね」

「味が?」

「飲むと、体の中で何かが動く気がするんですよ」

「ほう?なら、もっと飲んで欲しいな」

 この人の好奇心をくすぐってしまった。

 後悔した時には既に遅く、断ることが出来なくなってしまった。

 ポーションと睨み合った後、意を決してほんの少し飲む。

 直ちにゴロゴロと何かが蠢く感覚がする。量を抑えたお陰か、吐くようなことは無かった。

「ウィル、もう一度飲んでくれ」

「本気ですか?」

「ああ。何か掴めそうなんだ」

 仕方なく、二口目を飲む。

 また、何か蠢く。先よりも動きが激しい。

 気持ち悪い。

 そんな中、師匠は紙に文を書き連ねていく。時々思案しながら、書き続ける。

「なあ、ウィル。魔力制御をしてくれないか?」

「……俺は魔力が無いので出来ないですよ」

「いいからいいから」

 理由は一切告げず、しろとだけ言ってくる。

 出来るわけが無いとは思いつつも、師匠が言っていたことを元に行ってみる。

 すると、紫色の火は灯らなかったが、指先に向かって、感じたことの無い何かが、駆け抜け抜けていった。

 左腕がゾワゾワする。

「うん、想定通りだ」

 師匠だけが、今の現象を理解しているようだ。

「師匠。今のってなんですか?」

「体験したことの無い感覚なのか?」

「はい」

「そうか」

 質問をしようとしたが、師匠の字を書く腕は速さを増す。

 余計なことを言ってしまった。

「師匠ー。説明してくださいよー」

 我慢出来ず、彼女の体を揺らす。

「ウィル、字がぶれるから揺らすな。説明は午後にでもするから」

「約束ですよ」

「ああ」

 言質をとると、俺は部屋を出る。

 結局何も分からずに、謎だけが増えてしまった。加えて、興味無いと思っていたのに、今では知りたいと思っている。

 ただでさえ、訓練が始まって大変だというのに、ゴタゴタが増えるのは勘弁願いたい。

 俺はこの話な一旦区切りをつけ、階下へ向かう。

 リビングのソファで、ユウナがべちゃあ、とうつ伏せになっているのが目に映る。

「お疲れ様」

「あ、お兄ちゃん」

 ユウナはそれだけ言って、顔を伏せる。

 活動限界らしい。

 外ではまだ、セイが筋トレをしている。

「お、ウィルか。いまからやるか?」

「そうする」

 昼食まで、多分後一時間弱。筋トレには十分な時間だ。

「そういえば、疲れてユウナぶっ倒れたが、大丈夫か?」

「多分大丈夫。俺も運動して欲しかったから、ちょうどいい機会だったと思う」

 俺は運動が出来て、魔法がからっきし。ユウナは運動がからっきしで、魔法が出来る。と、俺たちは全くの逆なのだ。

 それから、筋トレを二人で続けた。

 セイは実に二時間程、朝練を含めたらそれ以上動いていることになる。

 凄いな、と心から思う。

 なお、昼食が出来るまで、師匠は部屋にこもり、ユウナはソファで撃沈していた。


 昼食後は昨日と同じように、魔法の講義が行われた。が、師匠はどこか上の空のようだった。

 夕食時にユウナに聞いたが、魔法の実践でも同じような状態だったらしい。

 セイ曰く、何かに夢中になっているらしい。特に、魔法関連。

 話の聞いた時、心当たりしかなかった。

 セイに原因を知っているか、と質問されたので、素直に答える。

「多分、朝に俺の魔力について調べたからだと思う」

「なるほど。それは、ああもなりそうだ」

 去り際に、セイが早くどうにかしてくれよ、と言った。

 そう言われても、どうしようもないのだが。

 俺が問題の中心に近いから言ったのだろうが、何も出来やしない。

 仕方ないので、明日に備えて早い時間に寝た。




 昨日と同じ時間に起きた。昨日より早く寝たのにだ。

 日に日に睡眠時間が伸びている気がする。

 慣れない生活の疲れのせいだろうか。

 お陰で今日も、セイに早く起きろと言われた。生返事しか返せなかった。

 午前は昨日と同じように、師匠の研究から始まった。

「ねえ、師匠。これいつ終わるんですか?」

「正午までには」

「ああ、そういうことじゃなくて、何日ぐらいかかるんですか?」

「さあ?明日かもしれないし、明後日かもしれない」

「早く終わらすことは?」

「分からん。ところで何故そんな急いでいるんだ?」

 理由を聞かれ、包み隠さず述べる。

「師匠が上の空だから困っているんです。講義の質も少し下がっているので」

「何?そうだったのか。すまない」

 拍子抜けな程に、あっさり師匠は非を詫びた。

「おいおい。意外そうな顔をするな。講義の質は元に戻す。が、研究は継続させてくれ」

「保証するのなら大丈夫です」

 会話の後、何事もなく研究は進んだ。

 師匠の腕は高速で文字を綴っていく。視界の端に映った紙には、乱雑に文字が書いてある。メモらしい。

「師匠。紙に色々書いてますけど、この後まとめたりするんですか?」

「ああ。本の一部にする」

「本って?」

「ウィル達が教科書として使っている、私の書いたあの本」

「発表しないんですか?」

実験体モルモットになりたいか?」

 首を強く横に振る。

 危うく自ら命を粗末にするところだった。

「まあ、私は論文とかを発表したことは無いが」

 師匠が付け足す。

「よし、書き終わった。今日は終わり。明日で一旦終了にしよう」

「講義はしっかりやってくれますよね?」

「迷惑かけたな」

 昨日とほぼ同じ時間に終わった。

 恐らく今日も……

「あ、お兄ちゃん……」

 案の定ソファでユウナが伏せている。

「お疲れだな」

「筋肉痛……」

 昨日よりは活動できているようだ。

 キッチンに行き、水を持っていく。

「ほれ」

「ありがとうー」

 うつ伏せになりながら、器用に飲み干す。

「相変わらず運動は苦手か?」

「苦手。お兄ちゃん達はよくそんなに動けるね」

「ユウナが魔法を練習している間に運動してきたから。すぐじゃないかもしれないけど、ユウナも克服するよ」

 俺もソファに座り、会話を続ける。

 明日も同じスケジュールのため、ユウナはより筋肉痛に苦しむだろうな、などと考える。

 彼女は学校の体育ですら、ヘトヘトになるほど体力がない。

 これを機に運動を出来るようになれば……。

「おーい、ウィル。動くか?」

 外から声が聞こえる。

 そろそろ昼ご飯が近い時刻になっている。

「午後からにするよ」

「そうかー」

 と、言ったものの、昼までどうしようか。

 ふと、考えが浮かぶ。

「なあ、ユウナ。冷蔵庫の中身は自由に使っていいんだよな」

「うん。そうだよ」

 俺は返事を聞いて、キッチンに向かう。

 はじめは俺の意図を理解していなかったユウナは、その時理解する。

「お兄ちゃん、無茶だよ!」

 必死になって俺を止める。

「子供じゃないんだから、そんなに慌てるなよ」

「でも……」

「俺の料理は嫌いか?」

「そんなことないよ!お兄ちゃんの料理は絶品で、何度でも食べたくなって……」

「意地悪な質問をしたな。でも、安心しろ。このコンロなら何とかやれる」

 観察すると、この家のコンロは、かつての俺の家のものと同じだ。

 そして、キッチンの奥に固形燃料が見える。

 つまり、昔使っていたあの技が使える。

「ユウナ、少し手伝ってくれないか?」

 準備を始める。

 まずはコンロをコンロたらしめている魔石を外す。魔石には魔法陣が刻印されており、魔力を流せば、火が出るという仕組みだ。

 これがメンテナンス用に外せることを利用する。

 そして、固形燃料を魔石のあった場所に設置。安全性は過去の経験から保証されている。

 最後にユウナに着火してもらう。

 これが魔力がないなりのやり方だ。

 冷蔵庫を開け、中身を把握する。

 使ってよさそうなのは、肉と野菜あたりだろう。

 野菜を適当な大きさに切り、肉で巻いていく。並行してスープ用の野菜も切る。

「ユウナ、頼めるか?」

「うん」

「すまないな」

「いいよ。気にしてない」

 ユウナの魔法を着火剤に用いるのは、兄と心苦しさを感じる。

 片方のコンロではスープを、もう片方では肉巻きを炒めていく。

 味付けの調味料は、過去の経験から推測し感覚で投入する。

 匂いにつられて、男が入ってくる。

「いい匂いー……今日はウィルが作っているのか!?どうやって」

 当然の反応をされる。

「固形燃料を使えば俺だって一応は作れる」

「へー、考えたもんだ」

 セイがキッチンにやってくる。

「凝った料理を作れるんだな」

「そこまで凝ってはないでしょ」

「いや、俺からしたら凝った料理だ」

 一昨日豪快な野菜炒めを作った男の発言だ。あの時は男らしいとぼかしたが、味付けはいいとして、野菜の大きさが一口大以上だった。よく火を通したものだ、と感心した。

 炒めつつ、スープの様子を見ると、いい感じに野菜が柔らかくなり、味も問題ない。

 これにて完成だ。

 器に肉巻きを乗せ、スープを人数で等分する。

 忘れず火を消す。

「できたぞー」

 すでにスタンバイしていたユウナとセイが歓声をあげる。

 セイがメイさんを呼んでくる、と言って席を立つ。

 しばらくして、師匠とセイが降りてくる。

「おー、美味しそうじゃないか。セイには作れそうにないが、いったい誰が?」

「お兄ちゃんが」

「ウィルが?コンロは使えないんじゃないか?」

 師匠にどうやったのか説明する。

 ついでに固形燃料を勝手に使ったことを謝っておく。

「なるほどな。ああ、固形燃料の件は気にしないでくれ。余りまくっているから、じゃんじゃん使ってくれ」

 会話した後、すぐに食事を始める。

 セイのがっつきようが異常だ。

 師匠とユウナにおいしいと言ってもらえて嬉しかった。

 食べ終わった後、片付けも俺がやる。

 全員が一服ついたところで午後練が始まった。

 今日の魔法の講義は、昨日とは違い師匠が上の空でなかったため、内容の濃いものとなった。

 そしてそのまま何事もなく一日が終了した。




 この家に来てから五日目。

 久しぶりに早く起きられた。ただし深夜三時だが。

 額には汗が付いている。特段暑いわけではない。

 詳しく思い出せないが、悪い夢であったことは確かだ。

 もう一度寝付ける気がしなかったので、一階に降り水を一口飲む。

 その後セイに朝練に誘われ、快く承諾する。

「ウィル、少し顔色が悪い気がするぞ」

「そうか?特に変わりはないけど」

「ならいいが」

 嘘をついて誤魔化しておく。原因は疲労だろう。それなのに無駄な心配はかけたくない。

 この日も今までと同じように、師匠の研究に付き合い、動いて、講義を聞いて、動いた。

 いつもより早めに床につく。

 これで症状が改善するといいんだが。

 と、願ったものの、六日目の朝。また気分の悪い状態で起きる。

 しかも昨日より夢の内容を覚えている。

 誰かに問いかけられている夢。そう、暗闇の中で俺と、そいつの二人きり。

 俺は問いかけに答えられなかった。

 そして、その瞬間目が覚めたのだ。

 どんな質問かまでは覚えていないが、体調は最悪だ。

 頭が痛いし、だるい。

 今日は休もう。

 時計を見るに、セイは起きていそうだ。

 一階に降りると、果たしてセイが水分補給していた。

「おはよう、ウィル……って大丈夫、じゃなさそうだな」

「最悪な気分。今日は寝ていていいと思う」

「ああ、部屋で寝ておけ。メイさんには俺から言っておく」

 水を二杯ほど飲んで、部屋に戻って、再びベッドに入る。

 すぐに意識が持っていかれた。




 俺は暗闇の中にいた。

 見覚えがあるが、はっきりとは思い出せない。

 この場からは一切動けないようだ。

 奥から誰か来る。

『やあ』

 顔は分からない。全身が真っ黒であり、身体の細部は鮮明でないが、目や鼻といったパーツが何処にあるかは、ぼんやりと把握出来る。

「誰だ?」

『俺は、お前だ』

「何を言っている」

『つまり、俺はお前の深層心理の表れだ』

 言われても、いまいちピンとこない。

 深層心理と会話出来るものなのか?

「まあ、取り敢えず色々聞きたいことはあるが、何用だ?」

『お前に質問しに来た。俺と意見を一致させたいんだ』

 意見の一致、つまりあいつを深層心理と仮定するのなら、俺が心の底から納得するため、という解釈でいいのだろうか?

「で、質問って?あまり心地のいい場所じゃないから、早く帰りたいんだが」

『焦るな。聞きたいことは一つだけ』

 あいつは俺の元に歩いてくる。そして、俺の顔を引き寄せる。鼻と鼻が触れ合うぐらいだ。

『お前は本当に今の生活に満足、いや納得しているのか?これでいいと思っているのか?』

「何を……」

『本当は受け入れられていないんじゃないか?全く見ず知らずだったメイとかいう奴に引き取られて、ひとつ屋根の下で暮らすことを』

 こいつから圧を感じる。

 答えない、ということは出来ないと直感する。

「俺は……」

 今の生活に納得している。そう言いたかったが、声が出ない。

『俺は、何だ?』

「っ……俺は……!」

 まだ声は出ない。

『答えられないのか。残念だ。お前なら、すぐに答えられるだろうに』

 あいつは背を向け、立ち去っていった。

 俺はあいつの背中を眺めることしか出来なかった。

 やはり、あれ以降の言葉が出てこなかった。

 次第に、視界がぼんやりと滲んでくる。

 不鮮明になり、俺は自分が何処にいるのか、分からなくなった。




 ゆっくり上半身を起こす。

 窓から日光が差し込んでいる。

 隣のベッドには誰もいない。

 服を着替える。気分が幾分かマシになった。完全とは言い難いが。

「おお、おはようウィル。調子はどうだ?」

 皿洗いをしている師匠に話しかけられる。

 既に朝食は済んでいるらしい。

「ぼちぼちです」

「そうか。今日、皆で出かけようと思ったんだが、後日にするか?」

「何をしに行くんですか?」

「役所で住民登録をする予定だ。まだ、ウィルとユウナはナルフ村にいることになっているからな。それが終わったら、王都を観光しようかなと」

 元気はあまりないが、それくらいなら大丈夫だろう。

 それに、迷惑もこれ以上かけられない。

「今日行きましょう。体調は大丈夫です」

「そうか。じゃあ、ご飯を食べて準備を済ませてくれ」

 体調を考慮して、いつもより量を減らす。

 食べている最中、セイやユウナと会話をした。心配されたが、大丈夫だと答えておいた。

 ユウナは渋々俺の言うことを聞いてくれたようだった。

「全員準備は出来たか?」

「旅行する訳じゃないんですから」

 セイが軽口を叩く。

「それじゃ、行くぞ」

 俺は人生二度目の転移魔法を経験した。

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