第1-2話

こちらへ越してきたのは流行病が流行するほんのちょっと前のことだった。入籍した事を機に住み慣れた奈良の街から軽トラックと共に都へのぼった。本当は奈良の方が歴史も古いし都っぽい、都感強いと思っていたけれど、京都の人々は余所者を嫌うと聞いていたからその気持ちをぐっと堪えてそう書いた。どうも私、敵意ありませんよってね。仲間でっせ。あんじょうしたってね。という気持ち。結果まぁそんな事は全くなく良い人が多いのだけれど、流行り病もあって隣近所とあまり交流もなく気付くのに数年の月日を要した。


子が出来たとわかったのは一昨日の暮れ。肉屋に年配のお客さんの行列ができ、ポストに平安神宮のお札が投函される頃のこと。不妊体質であったので約半年間の不妊治療を行なった末に授かった子だった。半年で出来るのは珍しく、運が良かったわねと女医さんが無表情に言っていたのが印象的だった。ただただ辛いつわりと守りたい一心で過ごした妊娠期間だった。妊娠中毒症で入院し1週間促進剤を使って、結局帝王切開で産んだので相当大変だったけれどそれも喉元過ぎればなんとやらで今は思い出す事もあまりない。

産後のホルモンバランスの変化で窓から見える京都タワーがあまりに美しく、死にたくなったあの時の辛さに比べれば何もかもが容易く思える。そう思うほど産後の数日は辛かった。

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