しか小児科医院

@midd1e221b

第1-1話

「そもそもなんでこんな小さい子を保育園に入れるねん、アホか」とその医師は言い放った。共働きが一般的になった昨今なかなか奥ゆかしく、なんとも時代錯誤なお説教である。

娘は生後7か月、ようやく離乳食も安定して食べられるようになり支えられてやっと座ることができるようになった月齢である。まんまんまんまんと喃語で話し、こちらはそのあらゆる喃語に意味を当てがい「我が子天才と違うか?」「我が子MENSA道場破りできるかもしらん」などと言う戯言を半ば本気で考える程度には浮ついている。可能であればずっと側に置いてかわいいかわいいと愛でていたいというのが本音なのだ。

であるから医師が言う通りなぜこんな幼い子をという気持ちはもちろん私にもある。大いにある。毎秒かわいさに心が揺らぎ何度区役所へやっぱりやめます、と言いに行こうとしたことか。その度に実際行くのをためらったのは1歳からの保活の難易度の高さと3歳までの自宅保育をこなす自信があまりにもないからだ。

1歳さんの保育園の倍率、ご存知であろうか。もちろん例外もあれど、いわゆる大きな市区町村の大半では定員を大幅に上回る応募がありかなりの倍率となっている。ちなみに住まいのあるU区は子育て世代が住みやすい環境であることと都心へのアクセスの良さから平均よりも倍率は高く、余程点数が高くないと入園できない。要するに身を粉にしてフルタイムで頑張るか、イヤイヤ期ワンオペで収入も得られず死にかけるかの2択なのだ。


「はぁ」と口を開けたまま固まる私に看護師さんが何かフォロー的なことをしている、わかる。それだけはわかった。そこから建物を出るところまでの記憶がない。正確にはもう思い出したくなかった。




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