第6話
ブランシュネージュとアリアドネは固い絆で結ばれ、アシュゴロスとの戦いに臨んだ。
ブランシュネージュは冷気を操る氷の魔法を得意としている。
『フロストアロー』
彼女がそう唱えると、その手から氷の矢が放たれた。
放たれた矢は速度を増し、アシュゴロスの体を貫きながら凍り付かせた。周囲を凍てつかせる氷が巨大な悪魔を包み込み、動きを鈍らせる。
しかし、それで怯む悪魔ではない、ブランシュネージュの方を真っ直ぐ睨みつけると口から炎を吐き出した。ブランシュ・ネージュに広範囲の炎が襲い掛かろうとしたその時。
『セイレーンシールド』
透き通るような声で周囲に響き渡る呪文。
唱えた主はアリアドネであった。
彼女の周囲から青白い光が集まり始め、光は次第に強く輝き出す。その光の中から、透明な膜が形成されていく。
膜はブランシュ・ネージュの前方に広がり、広範囲を覆い尽くす大きな盾となり、炎と彼女を遮った。膜の表面は透明でありながらも、微かに青い光が揺らめく。
セイレーンシールドの展開によって、周囲の空気が一瞬にして凍りつきる。冷たい霧が盾の表面から立ち上り、氷の結晶が輝く。この盾は強力な防御結界となり、アシュゴロスからの攻撃を跳ね返す。
アリアドネが得意とする魔法はサポート魔法であり、癒しと保護の力を持ち、ブランシュネージュをサポートする。
「ありがとう。あなたの魔法はいつも私を支えてくれるわ。」
ブランシュネージュは感謝の気持ちを込めて言います。
続けて
「これ以上あの悪魔に暴れられると被害が大きくなるわ。私の魔法で片付けるから、あなたは下がってなさい。」
アリアドネに対して力強く言い放つ。
『アイスドメイン』
そう唱えた瞬間、周囲の温度が一気に下がり始める。寒気が宙に立ち昇り、空気が凍りつく音が聞こえる。
アシュゴロスの足元に現れた氷の結晶を中心として徐々に大地を氷で覆い尽くしていく。この一瞬で、アシュゴロスを中心とした氷の領域魔法の力によって美しくも厳しい氷の領域へと変わっていく。
アイスドメインの効果によって、風景は変貌を遂げる。建物の表面は氷の輝きで覆われ、まるで銀の世界が広がったかのようだ。足元の地面は氷の床と化し、足音が響く度に氷が割れる音が響く。
周囲の存在も凍りついていく。水滴は氷柱となり、風は吹きすさぶ氷の吹雪となる。生命の息吹さえも凍りつき、氷の彫刻のような風景が目に映る。
アイスドメインはブランシュネージュが操る魔法の中で最も得意で最も強力な魔法である。
アイスドメインの氷結領域に入った存在は凍りつく。
結晶から放たれる寒気が相手の動きを鈍らせ、やがて命の鼓動も鈍らせていく。
彼女が呪文を唱えてから僅かの間に氷結を中心とした領域内の周囲数メートルの気温は一瞬して氷点下を下回る。
影響は領域内に留まらず王国内、王国周辺の森までも冬の厳しい寒さに逆戻りしたと錯覚するほどの冷気で充満していた
「普通の魔物ならこの領域内に入っただけで絶命するのだけれど。」
ブランシュ・ネージュはそう呟いた。
氷結領域が展開された直後、アシュゴロスの巨大な体躯に氷の結晶が張り付き始める。彼の動きは鈍り、力強さを失っていく。アシュゴロスは凍りついた地面に足を取られ、重い足取りで身体を動かす。
「グォォォォ……」
悪魔の咆哮はかつてほどの迫力を持たず、声は抑えられている。ただ、かすかに凍てつく寒気を伴っている。アシュゴロスの攻撃も衰え、拳の振るわせ方も力強さを欠いている。彼は氷の結晶に覆われながらも、まだ生命の光を失っていない。しかし、明らかに衰弱と鈍化が伺えるのだ。
アシュゴロスは踏ん張りながら、氷結領域の中で自身の力を取り戻そうと試みる。しかし、氷の結晶に包まれた体は凍りつき、自由な動きができない。彼の眼差しは怒りと苦悶に満ちている。
ブランシュ・ネージュは氷結領域の中で優雅に舞いう。その美しさと威厳は、まるで凍りついた大地の女王そのものだ。
彼女の手元からは氷の魔法が舞い上がり、鋭く輝く氷の剣が形成される。
ブランシュ・ネージュは、敵に対して華麗な攻撃を繰り出す。彼女の剣は冷たい光を放ちながら、アシュゴロスに向かって斬りつける。
その一撃ごとに氷の結晶が砕け散り、凍りついた氷の破片が舞い散りる。
アシュゴロスは氷結領域の中で不自由な動きを強いられる。凍りついた地面が彼の足を引っ掛け、氷の結晶が彼の体に突き刺さる。
ブランシュネージュの攻撃は容赦なく続き、氷姫の魔法は悪魔を徐々に追い詰めていく。
対照的に、ブランシュネージュの身には凍てつく氷の霧が宿っていく。彼女は優雅に氷結領域の中を舞いながら、魔法の力を操る。凍りついた風が彼女を包み込み、銀色の髪は凍てつく美しさを増していく。
氷結領域の中では彼女が真に輝く。その戦いの様子はまるで氷の嵐の中で舞う女王のように美しく、一瞬たりとも敵を逃すことはない。
この氷結領域内の戦闘こそが、「氷姫」と呼ばれる所以である。
「グ……ォ……」
悪魔は力無く叫び声を上げると倒れた。
遠くから、この戦闘の様子を見守っていた王国の民衆は、氷姫が勝利したことを知るや否や、大きな歓喜に包まれた。
深夜から始まった戦いは、いつのまにか明け方となり、朝陽が王国を照らし出す。
歓喜の声が民衆の間に広がる。その響きは王国中に響き渡り、生命と希望の息吹となる人々は抱き合い、涙を流しながら喜びを共有する。
「勝利だ!氷姫が勝利した!」
「王国は救われた!氷姫に感謝しなければならぬ!」
「長い夜が終わった!未来は明るい!」
喜びと感謝の声が空高く響き渡り、王国の街は活気に満ちあふれる。
この瞬間には王国の民衆の心には大きな感動と希望が宿る。氷姫の勝利は、彼らに勇気と困難を乗り越える力をもたらした。この勝利の瞬間は、王国の歴史に誇り高く刻まれるに違いない。
しかし、不穏な影は消えることはない。
絶望の中で見えた希望の光だったが、それが長く続くことは無かった。
近くにあったはずの近衛騎士の死体や、子どもの死体など王国にあるはずの数百の死体はいつのまにか無くなっており、それに気づくものは誰一人としていなかった。王国の民衆、アリアドネ、ブランシュ・ネージュでさえも。
この強い希望の光の中で起こった僅かな黒い影に、直ぐ気づくものはいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます